なぜ『パリピ孔明 THE MOVIE』は“爆死”したのか? 小室哲哉・幾多りら出演でも「無風」だったワケ
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【サイゾーオンラインより】
いまやテレビドラマの劇場版は枚挙にいとまがない。今年8月には人気ドラマ『TOKYO MER〜走る緊急救命室〜』(TBS系)の劇場版第2作の公開が待っている。前作『劇場版TOKYO MER〜走る緊急救命室〜』(2023)は興行収入45.3億円という大ヒットだったため、続編も大いに期待されるところだが、なんでもかんでも“ドラマ→劇場版”の流れには、食傷気味という声も聞こえてくる。
フジ、映画事業にも暗雲が…
最近ひっそりと爆死していたのは、累計発行部数250万部突破の人気コミックを原作とし、2023年にフジテレビ系で放送されたドラマ『パリピ孔明』の劇場版『パリピ孔明 THE MOVIE』。2025年4月25日公開の本作ではとにかく豪華キャストをそろえ、さながらフェスのように仕立てたことがPRされたが、SNS上の反応を見てもほぼ“無風”。5月末には上映終了する映画館も続出した。
「劇場版ならでは」を詰め込んだのに…
ドラマは渋谷に転生した三国時代の天才軍師・諸葛孔明(向井理)の協力のもと、アマチュアシンガーの月見英子(上白石萌歌)が音楽界を上り詰めていくストーリーだ。劇場版では、ドラマの続きとして「ミュージックバトルアワーズ」と題した音楽バトルフェスを舞台にオリジナルストーリーが展開され、“大スクリーンならでは”のスケール感が前面に押し出された。
参加アーティストは英子が憧れる世界的シンガー、マリア・ディーゼルを演じるアヴちゃん(女王蜂)やDJ KOO(TRF)、SAM(TRF)など50名を超え、幾多りら(YOASOBI)や岩田剛典(三代目 J SOUL BROTHERS from EXILE TRIBE)、小室哲哉が本人役で登場するという豪華さ。
観た人からは〈あんなたくさんのアーティストの曲を良い音響で聴けたの嬉しい〉〈お金かかってる感じが凄くて盛り上がりも最高!〉など、満足感を得る人もいたものの、興行収入は伸び悩み、3億円ほどで着地。いわゆる“爆死”作となってしまった。
とはいえ、昨今テレビドラマの劇場版が最終興収5億円未満で着地するケースは少なくない。ここ5年間を振り返っても、『極主夫道 ザ・シネマ』(2022、4.8億円)、『劇場版 ルパンの娘』(2021、4.4億円)、『映画 賭ケグルイ絶体絶命ロシアンルーレット』(2021、3億円)などが挙げられる。
かつては“ヒット作の黄金パターン”だったテレビドラマの映画化だが、なぜ爆死作品が続いているのか。日本一ガチな映画批評に定評のある映画評論家・前田有一氏がその歴史とともに理由を解説する。
テレビ局発映画、潮目を変えたフジ『踊る大捜査線』
テレビドラマ発劇場版の歴史を変えたのは『踊る大捜査線 THE MOVIE』シリーズだ。 1997年にフジテレビ系列で放送されたドラマ『踊る大捜査線』シリーズの劇場版として、第1作は興収101億円という100億の大台を突破、邦画年間興収1位を獲得した。
さらに第2作『踊る大捜査線 THE MOVIE 2 レインボーブリッジを封鎖せよ!』(2003)は興収173億円を記録し、今も日本の歴代興収10位を守っている。前田氏は、「テレビドラマから劇場版という流れは、フジテレビが見つけた“金脈”だった」と語る。
そもそもフジは、文化放送とニッポン放送を中心に東宝・松竹・大映が参加して開局したという歴史的経緯があり、実は1960年代から映画づくりにも力を入れていた。
「フジテレビはバブル景気の真っ只中である1980年代、『南極物語』(1983)や『私をスキーに連れてって』(1987)など、数々のヒット作を飛ばすようになりました。そうした流れで『踊る大捜査線 THE MOVIE』シリーズが大ヒットすると、業界全体が次々とドラマの映画化をつくるようになったんです」(前田氏、以下「」内同)
2000年代には、『海猿』や『ガリレオ』のシリーズ作(ともにフジテレビ系)や『花より男子ファイナル』『ROOKIES-卒業-』(ともにTBS系)などテレビドラマ発の映画が市場を席巻していく。当時フジテレビ映画事業局映画制作部長を務めていた清水賢治(現・代表取締役)氏は、〈テレビ局がなぜ強いかといえば、それは監督がトレーニングを受けているからだ。圧倒的に多い製作本数をこなしている〉(2007年、KDDI総研)と、ヒットの要因を分析している。
ドラマ班が映画制作にも強いかどうかは議論が分かれるところだが、前田氏はさらに日本独特の構造を指摘する。
「日本は、世界に類を見ないほど地上波が異常に強い。無料で見られるコンテンツを(映画によって)マネタイズする、というビジネスが発展しやすい素地があったんです」
テレビドラマの劇場版は、既存ファンを劇場に動員できるうえ、地上波という強力な宣伝媒体を利用可能だ。“番宣”として映画出演者を無料で番組に出すことで、テレビコンテンツを作りながら、同時に映画を宣伝するという一石二鳥の作戦が取れる点も好都合だった。
薄利多売で「そもそもヒットを狙わない」作品の増加
こうして大ヒットの法則ができあがったが、それが通用する時代はいつまでも続かなかった。テレビの視聴率が下がるにつれて、“最終回の続き”である劇場版の成績も落ちていく。さらに、サブスクサービスの台頭で配信が主流になり、マーケットが世界に広がったことで、日本“のみ”をターゲットにしたテレビドラマの劇場版の集客は、苦戦を強いられ始める。
「テレビドラマの劇場版は、そもそも世界に売ることを目的としていない。国内市場だけをみているため、一本の予算は少なくなります。一方で、たとえば輸出が大前提となる韓国では1本20億円クラスの作品が年に何本も制作される。クオリティに差が出るのは必然です。
日本では、興行収入10億円を超えると一般的に“ヒット作”と言われます。しかし、今は大ヒットを最初から狙わない。かわりに損もしない程度の、つまりはなから興収5億程度しか目指さないような薄利多売の企画が乱発されるようになりました」
『パリピ孔明 THE MOVIE』に足りなかったもの
そう考えると、興収3億で着地した『パリピ孔明 THE MOVIE』は「許容範囲内」と見ることもできるが、少なくとも“ヒット作”のラインには届いていない。前田氏はその“届かなかった”要因として、SNSでの拡散性を指摘する。
「音楽フェスを舞台に、幾多りらさんや小室哲哉さんなどキャスティングの豪華さをうたいましたが、それらが刺さる層がSNSで拡散力をもつ人たちではなかったということでしょうね。今はハリウッドさえもTikTokやXをはじめとするSNSでの拡散を重視する時代。『パリピ孔明』がSNS戦略をとっていたとは言い難い」
もちろん、ドラマ発劇場版がすべからく爆死案件になるわけではない。たとえば2019年公開の『劇場版 おっさんずラブ 〜LOVE or DEAD〜』は興収26億円を超える大ヒット。前田氏は、「BLジャンルとSNSの親和性の高さが功を奏して、ドラマ版から大人気コンテンツだった。その流れで劇場版も売れた好事例です」と語る。
「作品がユーザーに届く導線が変わってきているということでしょう。地上波の方程式がいよいよ崩れはじめ、ネットに取って代わられつつある。テレビドラマの劇場版に“小粒”な作品が増えてきたのは、ユーザーのテレビ離れを象徴していると言えるのかもしれません」
新たなメディアの登場による影響は、邦画界にも波及しているのかもしれない。
横浜流星、識者が期待する「下半身」と「嫉妬顔」
(取材=吉河未布、文=町田シブヤ)
いまやテレビドラマの劇場版は枚挙にいとまがない。今年8月には人気ドラマ『TOKYO MER〜走る緊急救命室〜』(TBS系)の劇場版第2作の公開が待っている。前作『劇場版TOKYO MER〜走る緊急救命室〜』(2023)は興行収入45.3億円という大ヒットだったため、続編も大いに期待されるところだが、なんでもかんでも“ドラマ→劇場版”の流れには、食傷気味という声も聞こえてくる。
フジ、映画事業にも暗雲が…
最近ひっそりと爆死していたのは、累計発行部数250万部突破の人気コミックを原作とし、2023年にフジテレビ系で放送されたドラマ『パリピ孔明』の劇場版『パリピ孔明 THE MOVIE』。2025年4月25日公開の本作ではとにかく豪華キャストをそろえ、さながらフェスのように仕立てたことがPRされたが、SNS上の反応を見てもほぼ“無風”。5月末には上映終了する映画館も続出した。
「劇場版ならでは」を詰め込んだのに…
ドラマは渋谷に転生した三国時代の天才軍師・諸葛孔明(向井理)の協力のもと、アマチュアシンガーの月見英子(上白石萌歌)が音楽界を上り詰めていくストーリーだ。劇場版では、ドラマの続きとして「ミュージックバトルアワーズ」と題した音楽バトルフェスを舞台にオリジナルストーリーが展開され、“大スクリーンならでは”のスケール感が前面に押し出された。
参加アーティストは英子が憧れる世界的シンガー、マリア・ディーゼルを演じるアヴちゃん(女王蜂)やDJ KOO(TRF)、SAM(TRF)など50名を超え、幾多りら(YOASOBI)や岩田剛典(三代目 J SOUL BROTHERS from EXILE TRIBE)、小室哲哉が本人役で登場するという豪華さ。
観た人からは〈あんなたくさんのアーティストの曲を良い音響で聴けたの嬉しい〉〈お金かかってる感じが凄くて盛り上がりも最高!〉など、満足感を得る人もいたものの、興行収入は伸び悩み、3億円ほどで着地。いわゆる“爆死”作となってしまった。
とはいえ、昨今テレビドラマの劇場版が最終興収5億円未満で着地するケースは少なくない。ここ5年間を振り返っても、『極主夫道 ザ・シネマ』(2022、4.8億円)、『劇場版 ルパンの娘』(2021、4.4億円)、『映画 賭ケグルイ絶体絶命ロシアンルーレット』(2021、3億円)などが挙げられる。
かつては“ヒット作の黄金パターン”だったテレビドラマの映画化だが、なぜ爆死作品が続いているのか。日本一ガチな映画批評に定評のある映画評論家・前田有一氏がその歴史とともに理由を解説する。
テレビ局発映画、潮目を変えたフジ『踊る大捜査線』
テレビドラマ発劇場版の歴史を変えたのは『踊る大捜査線 THE MOVIE』シリーズだ。 1997年にフジテレビ系列で放送されたドラマ『踊る大捜査線』シリーズの劇場版として、第1作は興収101億円という100億の大台を突破、邦画年間興収1位を獲得した。
さらに第2作『踊る大捜査線 THE MOVIE 2 レインボーブリッジを封鎖せよ!』(2003)は興収173億円を記録し、今も日本の歴代興収10位を守っている。前田氏は、「テレビドラマから劇場版という流れは、フジテレビが見つけた“金脈”だった」と語る。
そもそもフジは、文化放送とニッポン放送を中心に東宝・松竹・大映が参加して開局したという歴史的経緯があり、実は1960年代から映画づくりにも力を入れていた。
「フジテレビはバブル景気の真っ只中である1980年代、『南極物語』(1983)や『私をスキーに連れてって』(1987)など、数々のヒット作を飛ばすようになりました。そうした流れで『踊る大捜査線 THE MOVIE』シリーズが大ヒットすると、業界全体が次々とドラマの映画化をつくるようになったんです」(前田氏、以下「」内同)
2000年代には、『海猿』や『ガリレオ』のシリーズ作(ともにフジテレビ系)や『花より男子ファイナル』『ROOKIES-卒業-』(ともにTBS系)などテレビドラマ発の映画が市場を席巻していく。当時フジテレビ映画事業局映画制作部長を務めていた清水賢治(現・代表取締役)氏は、〈テレビ局がなぜ強いかといえば、それは監督がトレーニングを受けているからだ。圧倒的に多い製作本数をこなしている〉(2007年、KDDI総研)と、ヒットの要因を分析している。
ドラマ班が映画制作にも強いかどうかは議論が分かれるところだが、前田氏はさらに日本独特の構造を指摘する。
「日本は、世界に類を見ないほど地上波が異常に強い。無料で見られるコンテンツを(映画によって)マネタイズする、というビジネスが発展しやすい素地があったんです」
テレビドラマの劇場版は、既存ファンを劇場に動員できるうえ、地上波という強力な宣伝媒体を利用可能だ。“番宣”として映画出演者を無料で番組に出すことで、テレビコンテンツを作りながら、同時に映画を宣伝するという一石二鳥の作戦が取れる点も好都合だった。
薄利多売で「そもそもヒットを狙わない」作品の増加
こうして大ヒットの法則ができあがったが、それが通用する時代はいつまでも続かなかった。テレビの視聴率が下がるにつれて、“最終回の続き”である劇場版の成績も落ちていく。さらに、サブスクサービスの台頭で配信が主流になり、マーケットが世界に広がったことで、日本“のみ”をターゲットにしたテレビドラマの劇場版の集客は、苦戦を強いられ始める。
「テレビドラマの劇場版は、そもそも世界に売ることを目的としていない。国内市場だけをみているため、一本の予算は少なくなります。一方で、たとえば輸出が大前提となる韓国では1本20億円クラスの作品が年に何本も制作される。クオリティに差が出るのは必然です。
日本では、興行収入10億円を超えると一般的に“ヒット作”と言われます。しかし、今は大ヒットを最初から狙わない。かわりに損もしない程度の、つまりはなから興収5億程度しか目指さないような薄利多売の企画が乱発されるようになりました」
『パリピ孔明 THE MOVIE』に足りなかったもの
そう考えると、興収3億で着地した『パリピ孔明 THE MOVIE』は「許容範囲内」と見ることもできるが、少なくとも“ヒット作”のラインには届いていない。前田氏はその“届かなかった”要因として、SNSでの拡散性を指摘する。
「音楽フェスを舞台に、幾多りらさんや小室哲哉さんなどキャスティングの豪華さをうたいましたが、それらが刺さる層がSNSで拡散力をもつ人たちではなかったということでしょうね。今はハリウッドさえもTikTokやXをはじめとするSNSでの拡散を重視する時代。『パリピ孔明』がSNS戦略をとっていたとは言い難い」
もちろん、ドラマ発劇場版がすべからく爆死案件になるわけではない。たとえば2019年公開の『劇場版 おっさんずラブ 〜LOVE or DEAD〜』は興収26億円を超える大ヒット。前田氏は、「BLジャンルとSNSの親和性の高さが功を奏して、ドラマ版から大人気コンテンツだった。その流れで劇場版も売れた好事例です」と語る。
「作品がユーザーに届く導線が変わってきているということでしょう。地上波の方程式がいよいよ崩れはじめ、ネットに取って代わられつつある。テレビドラマの劇場版に“小粒”な作品が増えてきたのは、ユーザーのテレビ離れを象徴していると言えるのかもしれません」
新たなメディアの登場による影響は、邦画界にも波及しているのかもしれない。
横浜流星、識者が期待する「下半身」と「嫉妬顔」
(取材=吉河未布、文=町田シブヤ)