【スーパーとクリスマスの裏側】ヤマザキのケーキ「3割引」で儲けゼロでも、 結果オーライのカラクリは?
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食品スーパーに関する疑問や消費者が知らない裏側を、創業105年にあたる2017年に倒産した老舗スーパー「やまと」の元3代目社長で『こうして店は潰れた~地域土着スーパー「やまと」の教訓~』(商業界)の著者・小林久氏に解説してもらいます。今回はについて明かします。
目次
・クリスマス商戦真っただ中、ケーキの予約獲得に躍起
・スーパーがクリスマスケーキの予約に躍起になるワケ
・「3割引」で儲けはゼロでも、 結果オーライ
・「売れ残ったケーキを半額で買う」は通用しない?
クリスマス商戦真っただ中、ケーキの予約獲得に躍起
クリスマス商戦真っただ中のこの時期、すべてのスーパーが「クリスマスケーキ」の予約獲得に躍起になっています。最近は原材料コストの上昇もあり、価格が5,000円を超えるものも珍しくありません。
日本では1922(大正11)年、洋菓子の「不二家」が初めてクリスマスケーキを販売したそうです。現在のようなイチゴのショートケーキが家庭に定着したのが1975年(昭和50年)頃なので、ケーキが生まれて100年、イチゴを乗っけて50年といえますね。
クリスマスケーキをどこで買うか? これは皆さんにとっても重要な問題ではないでしょうか? 専門店のケーキを食べたくても価格やアクセスの都合で買えない。デパートのケーキを買いに行くほどでもない。そこで登場するのがいつも買い慣れているスーパーが販売するケーキです。
スーパーで売られるケーキのほとんどは「ヤマザキ」や「Pasco(敷島製パン)」など「パンメーカー」が製造するもの。大量のケーキをクリスマスに販売するために、目下メーカーや専門店は土台となるスポンジの部分を作り置きして「冷凍保存」している最中でしょう。
昨年末、購入したデパートのケーキが届いて箱を開けてみたら、無惨に崩れていたというニュースがありました。製造後の保存から配送の段階で、何かトラブルがあったのだと推測しますが、スーパーで予約していればこんなことはなかったかもしれません。
スーパーがクリスマスケーキの予約に躍起になるワケ
スーパーはクリスマスの「曜日回り」によって、店舗全体の売り上げが大きく左右されます。クリスマスが週末に当たると、お客様は総合力で勝る大型ショッピングモールに家族で出かけますが、クリスマスが平日なら、仕事や時間的制約もあるため普段使いのスーパーへ行きます。今年のクリスマスイブとクリスマスは、火曜と水曜なので、スーパーにとってはまさに稼ぎ時ですね。
自宅でのクリスマスパーティを直近の週末にズラす割合が極めて低いことは、予約したケーキの受取日から見ても明らかです。具体的にはクリスマスイブが8割、当日が2割、その前後はほぼゼロという具合。土用丑の日の「うなぎ」や節分の「恵方巻」が当日しか売れないのと同じです。
スーパーがクリスマスケーキの予約に躍起になるのは、ケーキの受取日(すなわち稼ぎ時)にお客様を自店に取り込むことが目的。来店さえしてもらえたら、ワインやシャンパン、ローストチキン、手巻き寿司や鍋物の材料、ケーキに追加するイチゴなど、利益率の高い商品を一緒に買ってもらえます。
「ハレの日」の売り上げは、通常の2倍から3倍に跳ね上がります。そのためクリスマスケーキの予約客に対してケーキで得る利益を削ってまで割引するのも、ライバル店に客を取られないための作戦といえます。
「3割引」で儲けはゼロでも、 結果オーライ
個々の取引条件によって異なるでしょうが、パンメーカーからのクリスマスケーキの仕入れ価格は概ね定価の70%。その30%の利益を削って各スーパーが「ケーキご予約の場合は◯割引いたします」とPRしているんですね。
スーパーの利益率は20~30%ですから、もし「3割引」にすれば儲けはゼロです。しかしそのおかげで来店客と客単価が増え「結果オーライ」となるので、割引率の違いはケーキを集客の手段としてどのように位置づけているか? の違いです。
ちなみに、ロピアでは今年、不二家の「苺サンドケーキM」定価4,536円(税込、以下同)を4,210円、ヤマザキの「クリスマス 生ケーキ6号」定価3,888円を3,562円で数量限定予約販売しています。この2つについては、1割引にも満たないようなので、儲けはちゃんと確保できていますね。
このような割引とは別に、スーパーはパンメーカーと「年間取引額に対して◯%の販売奨励金を支払う」などのキックバック契約(適法)をする商習慣があります。クリスマスケーキもそれに含まれますから、多少利益補填されることもケーキの割引販売につながっていると思います。
キャッシュバック契約の最低金額をクリアするために、締め切り間際に同じメーカーのパンばかり特売するスーパーもあるほどです。この商習慣はパンメーカーにとどまらず酒類や一般食品、市場取引そのものにもあります。それだけにスーパーは、契約したメーカーの商品仕入額を増やすためにM&Aや統合を繰り返して企業規模を拡大しているともいえます。
「売れ残ったケーキを半額で買う」は通用しない?
今は店が従業員に販売ノルマを課したり、取引先に半強制的に売りつけたりすることは、パワハラ・モラハラに認定される時代になりました。スーパーによっては報奨金まで出してクリスマスケーキの予約獲得に励んできましたが、もうそんな荒っぽい営業はできない(はず)でしょう。
もちろん、スーパーも予約客以外のために「当日売り」のクリスマスケーキを仕入れますが、売れ残らない程度の数量ですので、「ケーキ難民」にならないためにも、やはり予約することをお薦めします。
クリスマス当日、「売れ残ったケーキを半額になるまで待って買うテクニック」はもう通用しません。それをしてしまったら、事前に予約してくれたお客様に申し訳が立ちません。残ったケーキを売り尽くすために、従業員を長時間働かせることの方が企業倫理に反しますし、早く売り切ってスタッフを家に帰してあげることが経営者の優しさでもあります。
皆さんがよく目にする「えっ、もうケーキは全部売り切れちゃったの?(チョコレートしかないの?)」という光景にはそんな背景があるんです。
私なら予約はせずに、見込み客用に大量に陳列されたコンビニの「2個入りショートケーキ580円」を買います。割高ではありますが、この時期一番コスパが良いと言えるでしょう。ただクリスマスイブの午前中に行かないと、予約のホールケーキ以外は全て売り切れて、シュークリームでお祝いすることになりますので要注意です。
私はお客様のクリスマスをHAPPYにするために、現場でサンタクロースの赤い帽子をかぶって頑張っているスーパーや小売店のスタッフにこそHAPPYが訪れることを願っています。
さあ日本のクリスマスがやって来ます。メリークリスマス!
目次
・クリスマス商戦真っただ中、ケーキの予約獲得に躍起
・スーパーがクリスマスケーキの予約に躍起になるワケ
・「3割引」で儲けはゼロでも、 結果オーライ
・「売れ残ったケーキを半額で買う」は通用しない?
クリスマス商戦真っただ中、ケーキの予約獲得に躍起
クリスマス商戦真っただ中のこの時期、すべてのスーパーが「クリスマスケーキ」の予約獲得に躍起になっています。最近は原材料コストの上昇もあり、価格が5,000円を超えるものも珍しくありません。
日本では1922(大正11)年、洋菓子の「不二家」が初めてクリスマスケーキを販売したそうです。現在のようなイチゴのショートケーキが家庭に定着したのが1975年(昭和50年)頃なので、ケーキが生まれて100年、イチゴを乗っけて50年といえますね。
クリスマスケーキをどこで買うか? これは皆さんにとっても重要な問題ではないでしょうか? 専門店のケーキを食べたくても価格やアクセスの都合で買えない。デパートのケーキを買いに行くほどでもない。そこで登場するのがいつも買い慣れているスーパーが販売するケーキです。
スーパーで売られるケーキのほとんどは「ヤマザキ」や「Pasco(敷島製パン)」など「パンメーカー」が製造するもの。大量のケーキをクリスマスに販売するために、目下メーカーや専門店は土台となるスポンジの部分を作り置きして「冷凍保存」している最中でしょう。
昨年末、購入したデパートのケーキが届いて箱を開けてみたら、無惨に崩れていたというニュースがありました。製造後の保存から配送の段階で、何かトラブルがあったのだと推測しますが、スーパーで予約していればこんなことはなかったかもしれません。
スーパーがクリスマスケーキの予約に躍起になるワケ
スーパーはクリスマスの「曜日回り」によって、店舗全体の売り上げが大きく左右されます。クリスマスが週末に当たると、お客様は総合力で勝る大型ショッピングモールに家族で出かけますが、クリスマスが平日なら、仕事や時間的制約もあるため普段使いのスーパーへ行きます。今年のクリスマスイブとクリスマスは、火曜と水曜なので、スーパーにとってはまさに稼ぎ時ですね。
自宅でのクリスマスパーティを直近の週末にズラす割合が極めて低いことは、予約したケーキの受取日から見ても明らかです。具体的にはクリスマスイブが8割、当日が2割、その前後はほぼゼロという具合。土用丑の日の「うなぎ」や節分の「恵方巻」が当日しか売れないのと同じです。
スーパーがクリスマスケーキの予約に躍起になるのは、ケーキの受取日(すなわち稼ぎ時)にお客様を自店に取り込むことが目的。来店さえしてもらえたら、ワインやシャンパン、ローストチキン、手巻き寿司や鍋物の材料、ケーキに追加するイチゴなど、利益率の高い商品を一緒に買ってもらえます。
「ハレの日」の売り上げは、通常の2倍から3倍に跳ね上がります。そのためクリスマスケーキの予約客に対してケーキで得る利益を削ってまで割引するのも、ライバル店に客を取られないための作戦といえます。
「3割引」で儲けはゼロでも、 結果オーライ
個々の取引条件によって異なるでしょうが、パンメーカーからのクリスマスケーキの仕入れ価格は概ね定価の70%。その30%の利益を削って各スーパーが「ケーキご予約の場合は◯割引いたします」とPRしているんですね。
スーパーの利益率は20~30%ですから、もし「3割引」にすれば儲けはゼロです。しかしそのおかげで来店客と客単価が増え「結果オーライ」となるので、割引率の違いはケーキを集客の手段としてどのように位置づけているか? の違いです。
ちなみに、ロピアでは今年、不二家の「苺サンドケーキM」定価4,536円(税込、以下同)を4,210円、ヤマザキの「クリスマス 生ケーキ6号」定価3,888円を3,562円で数量限定予約販売しています。この2つについては、1割引にも満たないようなので、儲けはちゃんと確保できていますね。
このような割引とは別に、スーパーはパンメーカーと「年間取引額に対して◯%の販売奨励金を支払う」などのキックバック契約(適法)をする商習慣があります。クリスマスケーキもそれに含まれますから、多少利益補填されることもケーキの割引販売につながっていると思います。
キャッシュバック契約の最低金額をクリアするために、締め切り間際に同じメーカーのパンばかり特売するスーパーもあるほどです。この商習慣はパンメーカーにとどまらず酒類や一般食品、市場取引そのものにもあります。それだけにスーパーは、契約したメーカーの商品仕入額を増やすためにM&Aや統合を繰り返して企業規模を拡大しているともいえます。
「売れ残ったケーキを半額で買う」は通用しない?
今は店が従業員に販売ノルマを課したり、取引先に半強制的に売りつけたりすることは、パワハラ・モラハラに認定される時代になりました。スーパーによっては報奨金まで出してクリスマスケーキの予約獲得に励んできましたが、もうそんな荒っぽい営業はできない(はず)でしょう。
もちろん、スーパーも予約客以外のために「当日売り」のクリスマスケーキを仕入れますが、売れ残らない程度の数量ですので、「ケーキ難民」にならないためにも、やはり予約することをお薦めします。
クリスマス当日、「売れ残ったケーキを半額になるまで待って買うテクニック」はもう通用しません。それをしてしまったら、事前に予約してくれたお客様に申し訳が立ちません。残ったケーキを売り尽くすために、従業員を長時間働かせることの方が企業倫理に反しますし、早く売り切ってスタッフを家に帰してあげることが経営者の優しさでもあります。
皆さんがよく目にする「えっ、もうケーキは全部売り切れちゃったの?(チョコレートしかないの?)」という光景にはそんな背景があるんです。
私なら予約はせずに、見込み客用に大量に陳列されたコンビニの「2個入りショートケーキ580円」を買います。割高ではありますが、この時期一番コスパが良いと言えるでしょう。ただクリスマスイブの午前中に行かないと、予約のホールケーキ以外は全て売り切れて、シュークリームでお祝いすることになりますので要注意です。
私はお客様のクリスマスをHAPPYにするために、現場でサンタクロースの赤い帽子をかぶって頑張っているスーパーや小売店のスタッフにこそHAPPYが訪れることを願っています。
さあ日本のクリスマスがやって来ます。メリークリスマス!