風俗を辞め、ブロックして完全に連絡を絶った――ホストから逃げた先は?

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 シェアハウスで暮らす20代女性の、ここに至るまでの想像を超えた物語を聞きます。
目次
・ずっと父や兄に怒鳴られてかわいそうだった祖母
・風俗の仕事も辞めることができた
・「お金を渡すあなたが悪い」
 古賀凛さん(仮名・29)は、ホストのリョウから何度も逃げたが、甘い言葉をかけられるとまた連絡してしまい、とうとう毎月の支払いが150万にまで達した。風俗嬢として稼ぐのが精神的に限界となっていたころ、居候していた知り合いの男性から暴力を振るわれ、自治体の相談窓口に助けを求めた。担当者からシェルターを運営する居住支援のNPOを紹介されて、ようやく逃げることができた。
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ずっと父や兄に怒鳴られてかわいそうだった祖母
 なぜ凛さんは「リョウから逃げたい」と思い、転居したり、警察や弁護士に助けを求めたりしながらも、またリョウのもとに戻ってしまっていたのだろうか。リョウの「お金じゃない。好きだ。結婚しよう」が営業トークであることはわかっていたし、時には「もう無理」とリョウの要求を拒み、リョウと大ゲンカをしつつも――。
 そう聞くと、凛さんはこう明かした。
「私には家族がいないので、誰も頼る人がいません。リョウがいなくなると、一人ぼっちになってしまう。もう一人ぼっちになりたくなかった」
 家族がいない? まだ20代の凛さんが?
 凛さんの両親は凛さんが3歳のころに離婚。母親は家を去った。父親と兄、祖母とで暮らしていたが、中学生のときに父親がガンで亡くなった。そして介護が必要だった高齢の祖母は寝たきりになり、凛さんが19歳のときに亡くなったという。
 凛さんはバイトをしながら学校に通い、祖母の介護をする毎日だった。
「おばあちゃんは父の生前から、ずっと父や兄に怒鳴られてかわいそうでした。足が弱って、転んで動けなくなって……高齢ウツだったのか、『死にたい』と繰り返していました。私は毎朝早起きして、トイレ掃除をして、ゴミ出しをして、バイト代が入ったら、おばあちゃんに好きなものを買って食べさせていました。おばあちゃんは、母がいなくなってから母がわりをしてくれて、優しくしてくれたから大好きだったんです。最期は病院でした。手を握ってついていたんですが、病院を出たあとに『息を引き取りました』と連絡がきました」
 そして祖母の死から1年後、3歳上の兄は、「これ以上家族の面倒は見られない」と凛さんに言い渡し、父の遺産を分けて、凛さんと縁を切ったのだという。それ以来、兄がどこにいるかもわからなくなった。凛さんは20歳で、天涯孤独となったのだ。
 兄も、凛さんと同じように苦労してきたはずだ。父も祖母もいなくなり、残されたただ一人の家族、妹を捨てて自分の人生を生きたくなったとしても、兄のことを責められない――とは思う。
 凛さんも「お兄ちゃんも疲れたんだと思う」と思いやるが、そんな言葉がまた切ない。
 一方で、凛さんは兄にがんばってきたことを認められた記憶はない。「『死ね』と言われながら生きてきました」と目を伏せる。
 だからなのか、精神科の問診票で「私が死んだ方が周りが幸せになる」という項目に、「ためらいなく○を付けてしまう」と笑った。
風俗の仕事も辞めることができた
 シェルターに入っても、金はかかる。スマホ代や生活費は、障害年金ではとてもまかなえない。しばらくは風俗の仕事を続けていたが、ようやくそれも辞めることができ、シェアハウスに移った。
 似たような境遇の女性3人とルームシェアしている。シェルターの家賃は数カ月分滞納してしまったが、NPOの人は払えるまで待ってくれると言ってくれている。
 リョウからは、数カ月前まで連絡が来ていたが、ブロックして完全に連絡を絶った。今度こそは。
 今、凛さんの支えは何? 楽しいことはある? と聞くと、「猫」と即答した。
「18歳のころから飼っている、唯一の家族なんです」
 シェルターもペット可の物件に入れてもらったほどだ。今年亡くなってしまったが、友人から子猫を譲り受け、今も凛さんの生きがいになってくれている。
「猫を守らないと。ほかに楽しいことはありませんが、猫が生きている限りは生きようと思います」
 そしてもうひとつ。たぶん凛さんの支えになっていることがあった。リョウとホストクラブを訴えるということだ。「悔しくて、何か方法はないかと探した」と言う。
 風俗嬢など女性の相談を受けているNPOを見つけて相談した。今、NPOが紹介してくれた弁護士と話し合い、これまでにリョウにつぎ込んだ金の証拠集めをしているところだ。
 その額、1年半あまりで、1500万……。20代の凛さんが、と思うと憤りとも悲しみとも何とも表現できない思いが襲う。それに凛さんがなくしたものは、お金だけではないはずだ。
 「お金を渡すあなたが悪い」
 訴えるのは、リョウに対する怒りからなのだろうか。
 凛さんは首を振った。
「リョウへの感情は何もありません。私、人に怒りの感情が湧かないんです」
 そして、こう付け加えた。
「リョウは、兄に似てるんです。だから、彼の要求に抵抗できなかったのかもしれません」
 「声優になりたかった」という凛さん。その柔らかい声からは想像もつかない、凛さんの話を「壮絶」などと形容するのはあまりに陳腐だろう。とはいえ、ほかに適当な言葉もない。話を聞きながら、たびたび言葉に詰まった。
 「お金を渡すあなたが悪い」――凛さんが助けを求めた警察のように、そう言い捨てるのは簡単だ。でも、悪いのは凛さんなのだろうか?
 数年前、『家ついて行ってイイですか』というテレビ番組で、深夜、出会い系サイトで見つけた男性と待ち合わせをしていた女性が登場したのを思い出した。相手の男性は現れず、女性の家に番組スタッフがついていくと、そこには寝たきりの祖母と父親がいた。
 「昼間は二人の介護に追われているから、男性と会えるのは深夜しかいない」と屈託なく明かしていたが、胸が詰まったのを覚えている。
 数年後、同番組が彼女を追うと、彼女は結婚していた。祖母と父を看取ったあと、夫になる人と出会ったのだと笑っていて、心底ホッとした。凛さんにも、そんな人が現れるといいなと心から思った。凛さんに幸多からんことを。
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