1年ぶりの連絡は訃報だった――衝撃を受けつつ、スッキリする思いもあった

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 “「ヨロヨロ」と生き、「ドタリ」と倒れ、誰かの世話になって生き続ける”
――『百まで生きる覚悟』春日キスヨ(光文社)
 そんな「ヨロヨロ・ドタリ」期を迎えた老親と、家族はどう向き合っていくのか考えるシリーズ。
目次
1年ぶりの連絡で、これまでの「?」と符号が合った
なぜ急にコロナワクチンの話題を言い出した?
友人や仕事先の人との別れが増えてきた
1年ぶりの連絡で、これまでの「?」と符号が合った
 酒井奈緒美さん(仮名・56)は、1年前に突然連絡が途絶えた取引先の多野さんからの封書を受け取って戸惑った。
 最後のやりとりがワクチンに関する論争だったので、それが原因で仕事を切られたのか、あるいは脳卒中の既往歴のある多野さんの体調が悪化したのかもしれないと心配していたからだ。封書の差出人の苗字は多野だったが、名前は別の男性だったことから、イヤな予感がした。
▼前編はこちら

 封を開けた酒井さんの目に飛び込んできたのは、予想どおり、多野さんの訃報だった。
「多野という苗字の差出人は、多野さんの息子さんでした。多野さんが昨年亡くなっていたこと、突然の死だったので、多野さんのパソコンやスマホのパスワードがわからず、取引先に連絡もできなかったことが、お詫びの言葉とともに記してありました。そして、死因は、“おそらく十数年前の脳卒中が関連していると思われます”とありました」
 酒井さんは、予想できたこととはいえ、多野さんの死を確認したことに衝撃を受けつつも、これまでのたくさんの「?」と符号が合ったことにスッキリする思いもあった。
「それでも、息子さんの手紙には急死とあったので、いつもの仕事の連絡が来なくなったころは少なくとも倒れていたわけではなかったということで……そこが今ひとつ納得できないところではあるのですが」
 もう多野さんと話はできないので、真実は闇の中だ。
なぜ急にコロナワクチンの話題を言い出した?
 そして、ふと思う。多野さんは死期が迫っていることをうすうす感じて、ワクチン論争をふっかけてきたのではないか――と。
「確かに、コロナ下では皆が多かれ少なかれ異常な精神状態になってはいたと思います。私だって、違う話題だったらもっと“大人の対応”をしたと思うのに、なぜかワクチンに関するデマに関しては固執してしまいました。それにしても、それまでの付き合いでは穏やかで他愛ない会話しかしてこなかったし、仕事の上でも師匠のような存在だった多野さんがなぜ急にあんなことを言い出したのか、多野さんに残された時間が少なくなっていることへの焦りとかイライラのようなものがあったんじゃないか。そう思えてならないんです」
 多野さんは、よく「ボクは不思議な偶然にしょっちゅう遭遇するんだよね」と言っていた。多野さんと仕事をするようになってから、酒井さんにもときどき不思議な偶然が起こるようになった。
 驚いて多野さんに報告すると、「別に不思議でもなんでもないよ。ボクなんてそんなことが数えきれないほどあるんだから」と、妙な自慢をしていたっけ。
 多野さんの最後のメールにも何か意味があるのかもしれない、などとつい深読みしてしまう。
自分もそういう齢になったんだなと思う
 多野さんの息子からの手紙には、最後に父親が取り組んでいた集大成のような仕事があって、それを息子さんが受け継ぎ、完成させてから会社を閉じる、と書いてあった。
「まだ若いのに、よくやっているなと感心しました。さすが多野さんの息子ですね、と伝えたかった。私が素人に毛が生えた程度のスキルや経験しかなかったころから、ここまで仕事を振ってくれて、見守って育ててくださったことへの感謝を込めて、息子さんにはお悔みの手紙を出しましたが、最後のやりとりについて書けませんでした。ご家族は多野さんの異変を何か感じていなかったのか、確かめたくはあったのですが」
 友人や仕事先の人との別れが増えてきた。自分もそういう齢になったんだなと思う。できれば、お世話になった多野さんとはちゃんとお別れをしたかったと思うが、仕方ない。
 そして、こんな思いが想起するのだ。
 十数年前の脳卒中が急死の原因になるのだろうか? 本当は、ワクチンが原因なのではないか。
 いや、そんなことを思うこと自体、反ワクチン派の片棒をかつぐことになる。ワクチンへの疑念を振り払おうとするが、またよみがえるのだ。「ワクチンで亡くなった人は多いんだよ。国が隠しているだけで」という多野さんの言葉が。
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