あのちゃんは失礼な後輩かもしれないが……実は先輩にとって「ラクな存在」であるワケ

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私たちの心のどこかを刺激する有名人たちの発言――ライター・仁科友里がその“言葉”を深掘りします。
<今回の有名人>
「僕は行かない」あのちゃん
『上田と女が吠える夜』(1月31日、日本テレビ系)
 一気に売れたタレントは、ほぼ必ず「来年消える」といわれてしまう。2023年にブレークし、年末の『第74回NHK紅白歌合戦』にも出場したあのちゃんもその一人だが、彼女はバラエテイ番組で長く活躍できる存在になるのではないだろうか。
 舌足らずな口調と、「僕」という一人称が特徴のあのちゃん。不思議ちゃんキャラでいくのかと思いきや、言動はなかなか激しい。
 『ぐるぐるナインティナイン』(日本テレビ系)で共演した大先輩の女優・泉ピン子を「ピン子ちゃん」呼びしたり(そのシーンは、番組の判断で全カットとなったそうで、放送はされていない)、スポンサーのいる前で商品を試食し、「おいしくない。ゲボの味がする」と発言したりなど、ヤバいエピソードには事欠かない。
 けれど、よく見てみると、あのちゃんは結構、気が利いている。ピン子のような滅多に共演しない大先輩にはタメ口だが、みちょぱや藤田ニコルなど、ほかの番組で顔を合わせるであろうちょっと上の先輩にはきちんと敬語を使っている。
 テレビ的には、あのちゃんが大御所に盾突いたほうが面白い。しかし、共演機会の多いちょっと上の先輩にタメ口を利き、「失礼な子だ」とみなされたら、面倒くさいことになることがわかっているのだろう。昨年の『紅白』への出場が決まった際も、素直に喜んで見せるなど、仕事へのやる気や野心はあるようだ。
「芸能人の飲み会に行かない」あのちゃん
 そんなあのちゃんといえば、「芸能人の飲み会に行かない」ことが広く知られ、相手が先輩でも断るそうだ。日本は総じて縦社会なので、先輩の誘いを断ることは難しい。ましてや礼儀に厳しいとされる芸能界で、先輩の厚意を無下にするような真似はなかなか難しいだろう。
 しかし、あのちゃんは自分を曲げない。1月31日放送の『上田と女が吠える夜」(日本テレビ系)のテーマは、「きっぱり断れる女VS断れない女」。同番組MCのくりぃむしちゅー・上田晋也は、ゲストのあのちゃんに「絶対断れるタイプだよね」と確認を取ると「直接誘われても『行かない』(って言える)」と、自分はきっぱり断れる女であることをアピール。
 上田が「あのちゃんが新番組始めました。スタッフから『1回目なんでよかったらスタッフと食事でもいかがですか?』なんてあるでしょ? そういう時はなんて言うの?」と尋ねても、あのちゃんは「いいですね! 行かない」と、やはり断るそうだ。
 さらに「5年やった番組の最終回の打ち上げ、『あのちゃんもいかがですか?』って言われたらなんて言う?」という質問にも、あのちゃんは「本当にありがとうございました。行かない」と答え、感謝はしても飲み会には行かないことを明言した。
 上下関係を重んじるタイプの人から見れば、あのちゃんは失礼な後輩かもしれない。しかし、彼女は年長者にとって、ある意味ラクな存在といえると思う。

 番組内では、上田だけでなく、高畑淳子やいとうあさこも「後輩を誘うのは気を使う」と言っていた。私は、彼女たちのようなベテラン勢は、後輩にどう思われようとあまり気にしないのかと思っていたが、後輩を無理に付き合わせて「パワハラ」と言われるのが嫌なのかもしれない。
 また、自分たちが先輩の誘いを断ってこなかった分、後輩に断られることに慣れていないため、いざそうなった場合、自分が必要以上に傷ついてしまうことを危惧している可能性もある。もっと言うと、ある後輩が自分の誘いは断るのに、ほかの人の誘いには応じていたと知ってしまったら、さらにショックだろう。後輩が先輩を拒否することへのタブー感が薄れた今、先輩は後輩から、自分の評価を突きつけられやすくなっている。となると、高畑やいとうが「後輩を誘うのは気を使う」と漏らすのも理解できるのだ。
 しかし、あのちゃんのように、「先輩から誘われても飲みに行かない」と公言する後輩は、先輩を傷つけない。もしあのちゃんに断られても「あの子は、いつもそうだもんね」と思えるからだ。その点で、あのちゃんは先輩にとってラクな存在なのではないか。
 加えて、あのちゃんは先輩に可愛がられる要素も持ち合わせている。というのも、彼女は基本的に飲み会に行かないものの、“絶対”ではなく、「この人とはしゃべりたいと思えば、行く」と言っていた。
 ということは、日頃は「行かない」で通しているあのちゃんが、飲み会に参加したらプレミア感が増す。その場の先輩たちは「飲み会に行かないと言って憚らないあのちゃんが来た!」とうれしくなるのではないだろうか。本人がどこまで意識しているかはわからないが、あのちゃんは協調性のなさを隠さないことで、好感度を非常に上げやすくなっていると思う。
 上田が「思い切って誘ってみるけど、今日終わってからごはん行かない?」と誘うと、「行かない」と満面の笑顔で断っていたあのちゃん。もちろん、あのちゃんに断られることを期待しての振りトークだろうが、予想に反してそんな彼女が「ご飯連れて行ってください」と言ったら、それはそれで上田はうれしいだろうし、「大人になった、成長した」と思うのではないだろうか。
 かつて『5時に夢中!』(TOKYO MX)で、北斗晶が「悪役はトク」と言っていた。悪い人、怖い人と思われているので、ちょっといいことをするだけで、「本当はいい人じゃん」と好感度が爆上がりするからだそうだ。
 あのちゃんもこれと同じ理屈で、先輩へのタメ口など非常識と取れる振る舞いをしたことが吉と出て、一般的な行動を取れば「本当はいい子」と周囲からの評価が上がるのではないか。
 友人のメイプル超合金・安藤なつによると、あのちゃんに電話をすると泣いていたり、か細い声で何か言っているなど、メンタルが不安定なこともあるようだ。忙しすぎてストレスが溜まっているのかもしれないが、たまには心を許せる人との飲み会に参加して、リフレッシュしてほしいものだ。
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