『大奥』亀梨和也演じる徳川家治、史上まれに見る○○夫婦! ドラマ冒頭シーンの意味は?

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1月18日に放送が始まった『大奥』(フジテレビ系)。小芝風花がヒロインを務め、KAT-TUN・亀梨和也やSnow Man・宮舘涼太も出演することも話題に。そこで、『大奥』シリーズの熱心なウォッチャーである歴史エッセイスト・堀江宏樹氏に、今作の楽しみ方について解説してもらいました。
 昨年(2023年)ごろから『大奥』にふたたび熱い注目が集まっているようですね。筆者がリアルタイムで知る限りでも何回目のブームといえるでしょうか。
 昨年のNHK版の『大奥』は、よしながふみ先生の漫画が原作の「男女逆転版大奥」でした。男女逆転の『大奥』が、歴史モノというより、男女の関係を鋭く問い直す、社会的な作品だったのに対し、フジテレビ版の『大奥』は、今回からキャストはもちろん、BGMも一新されていましたが、将軍こと「上さま」のお種を大奥の女たち全員が奪い合うという、昔ながらの「フジテレビの大奥」のままで安心させられました。
 フジテレビ版の『大奥』は、昭和43年(1968年)に最初のシーズンが放送されて以来、何度か断絶はあったものの、長い歴史を持つドラマシリーズです。
 江戸城内で、将軍の家族たちが暮らした「プライベートスペース」である大奥と、江戸最大の色街・吉原を足して2で割ったような世界観で構成されているのが特徴です。一度足を踏み入れれば、二度と出ることができない「女の牢獄」であるという、今作でも踏襲されている設定などですね。フジテレビ版の「大奥」は、歴史上の人物の名前を借りた登場人物が登場するけれど、史実に因われず、自由に物語が構成されるフィクションであることがわかると思います。
 そして、フジテレビ版の『大奥』シリーズでは絶対に必須な要素が、ヒロインがドン底に突き落とされてから、成り上がるという「お約束」です。その過程において、ヒロインが他のキャラとガチンコでぶつかり、キャットファイトも辞さないのが通例です。
 しかし、今回小芝風花さん演じるヒロインは、五十宮倫子(いそのみや・ともこ)。お名前からして、女性皇族です。歴史的観点から説明すると、五十宮は「幼名」であって、姓名、つまりファミリーネームなどではありません。
 倫子さまは閑院宮直仁(かんいんのみや・なおひと)親王のお子さまです。ちなみに直仁親王は、江戸時代中期の帝である東山天皇の皇子で、倫子さまは正確には倫子女王とお呼びすべき皇孫なのですが、そういう高貴な女性もフジテレビ版『大奥』のヒロインになるかぎり、ドン底からのキャットファイトが課されてしまいますから、あえて皇族ではなく、「公家の姫」という設定で押し切ることにしたのでしょうね。
 本連載も倫子女王については、ドラマの設定どおり「公家の姫」ということで、倫子と呼び捨てでいかせていただきますが、ドラマの内容が史実からかなり自由である以上、キャラクターたちの実像を知りたいと感じる読者もいるでしょう。
小芝風花演じる倫子が○○を拒絶した事実はない
 今回は記念すべき第1回なので、「ヘビのような目をした」、どSな演技がネットで好評だった亀梨和也さん演じる徳川家治、そして彼の御台所(みだいどころ)――つまり正室だった五十宮倫子の夫婦仲について、歴史書に見え隠れする実像を少しだけお話したいと思います。
 家治と倫子の婚儀が進められはじめたのは、寛延元年(1748年)のこと。翌年3月19日には江戸に到着、浜御殿(現在の浜離宮)に滞在しています。篤姫こと、天璋院篤姫は、こうしたプロセスの多くで問題が発生し、その度に婚儀が延びてしまったのですが、倫子は幸運の持ち主で、かなりすべてがスムーズにいったケースといえるでしょう。ドラマ冒頭部で、大きな池を見ながら、歌を詠む倫子の姿が映っていたのは、浜御殿での日々ということでしょうか。
 史実の倫子は家治との結婚前から儀式を重ね、その度に呼び名も変わりました。二人の婚儀の最中に家重が腹上死(と見せかけた毒殺死)を遂げたというのもフィクションですけれど、家治が父親の跡を継いで第10代将軍になった後も、倫子が「御台所」の呼称を拒絶し、「倫子さま」と呼ばれたがったという事実はありません。
 似たような話としては、第14第将軍・家茂に嫁いだ和宮が、「御台さま」ではなく「和宮さま」と呼ばれたがったなどという話は有名ですが……。
家治と倫子、まれに見るほどの「おしどり夫婦」!
 ドラマ第1回では相当に険悪だった家治と倫子ですが、史実では、この二人、大奥史上でもまれに見るほどの「おしどり夫婦」だったことが知られています。ドラマにも少し取り上げられましたが、家治は、おそらく祖父にあたる第8代将軍・吉宗のアドバイスで、あえて政治にクビを突っ込もうとせず、プロ並だった将棋など趣味の世界に生きた心優しき人物です。また、父親である家重の助言もよく聞いており、老中・田沼意次を重用し、倫子のもとに足繁く通ったという記録があります。要するに将軍が最高権力者として、思うがままにふるまう時代は終わったという「新時代」の幕政を体現する人物だったといえるでしょう。
 また、歴代将軍の母親や、正室、側室たちについて書かれた史料『幕府祚胤伝』を見る限り、倫子は二度と大奥から出られなかったどころか、増上寺や寛永寺に「お忍び」ではなく、将軍御台所として堂々と参詣した、なかなか珍しい記録の持ち主でもありますね。
 ちなみにドラマでは将軍の種を宿し、世継ぎの男子を設けた女こそが大奥の頂点に立つのだ! という世界観を崩していませんが、史実では第6代将軍・家宣の時代以降、男子の有無に関係なく、御台所は尊重されるべきという身分秩序が大奥にも導入されました。上さまのお種の奪い合いという闘争劇は、ドラマほど表面化していなかったと見るべきでしょう。
 こういう史実に、ドラマが今後、接近するのか、あるいはあえてしないのか……。フジテレビ版の『大奥』については、生まれる前のシリーズまで「時代劇チャンネル」でチェック済みの大奥ウォッチャーとしていろいろと楽しみです。
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