“余命半年”の叶井俊太郎、プロインタビュアー・吉田豪による最後のロングインタビュー!

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 サイゾーウーマンで12年にわたり、子育てをテーマに連載してきた映画プロデューサーの叶井俊太郎さん。『だめんず・うぉ~か~』(扶桑社)で知られるマンガ家・倉田真由美さんとの娘、ココちゃんは昨年中学生になりました。しかしそんな中、叶井さんが末期の膵臓がんだと判明。
 余命半年と宣告されてから、叶井さんは旧知の友人へ会いにいくことに。15人の友人と交わした怒涛の会話は、対談集『エンドロール!末期がんになった叶井俊太郎と、文化人15人の“余命半年”論』(サイゾー、発売中)に収録されています。今回、その15人には入らなかったものの“そこそこ深く長い付き合い”だったプロインタビュアー・吉田豪氏との対談が実現。吉田氏による、最初で最後のロングインタビューをお届けします。(収録日:2023年10月19日)
――叶井さん、久しぶりに会いましたけどさすがに痩せましたね。
叶井 でも、がんで痩せたわけじゃないから。がんがデカくなって、内臓を圧迫してて飯が食えなくなっちゃったの、吐いちゃうから。胃を半分切って食道と小腸直結したときの手術で20キロ以上痩せて、いまもう30キロ近く痩せてるんじゃない? けっこうヤバいよ、末期がん。
――だから、こんなに断りづらい仕事もないですよ。
叶井 ないよな、末期がん患者との仕事は(笑)。末期がんってけっこうパワーワードで、仕事がうまいくいくんだよ。
――いままでオファーを断ってた人たちも逃げられなくなる(笑)。
叶井 逃げられなくなる。「え、俺これで死んじゃうかもしれないんだけど」って言ったら、「最後か……やるよ」って言うよね、当然。映画館も俺の手掛けてる映画なんか上映したくないのに、「しょうがないよね……やるしかないよね」って。「じゃあやって!」って、めちゃくちゃなんでもうまくいくよ。
――この手が使える期間をどれくらい引き延ばせるかですよね。
叶井 去年からずっと使ってっからね(笑)。まだ最後最後って言ってるから。昨日も東スポに載ってさ。
――末期がんの叶井さんが対談集を出すって記事がバズってましたね。
叶井 それが総合ランキングで1位になってんの! 昨日、俺が別でやってる東映の映画も告知解禁したわけよ。そっちはランク外だったから、さっきも東映から電話あって「叶井さん、自分のパブが1位じゃないですか! そこにひと言タイトルぐらい入れてくださいよ」って言うんだけど、「入れらんねえよ、俺の本だから」って。
――本はボクも予約済です。
叶井 あ、ホント? 素晴らしいね!
――でもある意味、肩透かしだったというか。ずっと呑気だった叶井さんでもさすがにこうなったら多少はいろんなことを考えるようになるのかな、みたいなものを読者に求められてたと思うんですけど。
叶井 いないだろ、そんな人。いるか?
――だからちょっとビックリしたんですよ。相変わらずで。
叶井 軽いよね(笑)。でも、あれ人選けっこうおもしろいよね。
――それこそ末期がんじゃないと集められないメンバーでした。
叶井 そうそう、鈴木(敏夫)さんだって末期がんだからやってくれたからね。あの人の話もおもしろいよね。徳間書店の徳間康快さんががんになってサルの脳みそ食わせたら治ったとか、自分も20代で死にかけて髪の毛が真っ白になったとか、ホントかよって話ばっかりだった。
――麻酔しないで手術したとか言ってましたね。
叶井 絶対に嘘じゃんあんなの! 麻酔なしで腹を切るとかさ。
――やっぱりジブリというより『アサヒ芸能』(徳間書店)の人だと思いました。
叶井 『アサ芸』の編集者だったからね。あれはおもしろいなと思った、まじめに語ってたから。
――Kダブ(シャイン)さんとの関係もこれで初めて知りました。
叶井 だって中学からの友達だからね。
――Kダブさんが渋谷のドンになる前に渋谷のディスコで一緒に遊んでたっていう。
叶井 遊んでた。だって俺もKダブって知らずに仕事を発注したりしてたからね。
――ヒップホップ映画の仕事でよく知らないままオファーして、そこの呑気さもさすがなんですよね。
叶井 そうそうそう、「各務貢太、おまえがKダブなのか!」って、あれが社会人になって一番衝撃を受けたね。Kダブとの対談は忘れてたことをいっぱい思い返されておもしろかった。80年代から90年代頭ぐらいの東京の片隅でこんなことがあったっていうのはなかなかおもしろいんじゃないですか? カルチャー的には。ひどい中学生ですよ。あれ、もう読んだの?
――もちろん! だから、さっきも言ったようにちょっとビックリしたんですよ。もともと、いろんな迷惑かけた人たちに謝罪していくみたいな企画だったはずが、謝罪するほどの何かもないし。
叶井 ないねえ。
――で、こういうことになって何か深い人生観的なものが出てくるかと思ったらそれもないし。
叶井 ないですねえ。だから不思議な対談だよ。あなたも対談ばっかしてるからわかるだろうけど、あれ対談になってないよね。昔から知ってる人がゲストっていうのもあるし、俺も会ってみてぜんぜん覚えてない話が多かったから。
――叶井さんが基本、何も覚えてないんですよね。
叶井 覚えてないですね。だからあれはおもしろかったね。
――叶井さんはボクともけっこう仕事してきたと思うんですけど。
叶井 けっこう昔から知ってるもんね。
――最初に何で会ったか叶井さんは覚えてないと思うんですよ。
叶井 俺たぶん吉田豪とは30年ぐらいたつよね。吉田豪も一応候補には入ってたんだけど。
――そんなガッツリした関係性がないですからね。
叶井 そうそう、ガッツリした個人的なつき合いがなかったんで今回はなかったけど。でも30年ぐらい知ってるよね。なんで会ったんだっけ?
――覚えてないと思いますけど、ボク『八仙飯店之人肉饅頭』の集まりがあったんですよ、銀座かどっかで。映画関係の知り合いに呼ばれて行ってるんですよ。
叶井 『人肉饅頭』の集まり?
――『人肉饅頭』をやった人を紹介する的な感じで、ボクがいた編プロの映画関係の人に呼ばれて。たぶんそのときにいたのが叶井さんで、名刺交換ぐらいはその時点でしてるんですよ。
叶井 ホント? へぇ~っ、ぜんぜん記憶ないわ。あれ92~93年だよ。もう30年前だね、すごいね。
――ちゃんと話したのはそのあとの編プロ関係者の結婚式か何かで、叶井さんの最初の奥さんを知ってる、みたいな話で盛り上がった記憶があって。
叶井 『宝島』の人?
――そう。ボクが編プロで『宝島』に出入りしてて、接点はなかったんですけど、かわいい子がいるなと思ってたら、それが後に叶井さんと結婚して一瞬で離婚してたことを知ったり。
叶井 ああ、なるほどね。
――そこから叶井さんが手掛ける映画関係のトークイベントに何回か呼ばれるようになったり、『いかレスラー』に出演したりとか。
叶井 いろいろ映画も出たもんね。
――『日本以外全部沈没』のパンフで原稿を書いたり、それなりに接点はあったはずなんですけど、叶井さんは確実に覚えてないはずなんですよ。
叶井 そうね(あっさりと)。でも、電話とかたまにしてるんだよ、「あれどう?」とかさ。でも、いろんなことやってたから覚えてないよね。
――今回の本を読んでたら、叶井さんがハワイでラジオをやってたときの上司がスティーヴ・フォックスだったのも初めて知りました。
叶井 ゴダイゴだからね。
――スティーヴ・フォックスってたいへんな人ですよ!
叶井 どんな人なの?
――自伝が出てるんですけど、薬物と宗教の話だらけですよ。
叶井 え!?
――薬物やってカルト教団でバンドをやってたら友人が殺されて、そこから脱出してゴダイゴ結成、みたいな。
叶井 え、そういう人なの? へぇ~っ、いま何やってんだろうね?
――昔、タケカワユキヒデさんの取材したときに「スティーヴ・フォックスの本が最高でした!」って言ったら微妙な顔されたのが印象的でしたね(笑)。ハワイではふつうだったんですか?
叶井 ヒッピーみたいだったよ。ハワイにいる白人でそういう傾向の人ってロン毛で上半身裸でボロボロの恰好して、みたいな人が多かったから、そんな雰囲気だったよ。こんな人が上司なんだと思って。そしたら元ゴダイゴの人だよって言われて、マジで!? ってなるよね。もうクビになってるんじゃないですか?

――現在こういう状況になって、あのときこうしときゃよかったなー、みたいなのとか多少反省することとか出てきたりするんですか?
叶井 ないでしょ(あっさりと)。何度も言ってるけど、ホントに未練なくてさ。まったく後悔もないし、やり残したこともないのよ、ホントに。
――女性トラブルや金銭面も含めて、たいへんな思いをしてきた人のはずなのに。
叶井 まっっったくないね。余命半年って言われてあらーっと思ったけど、来年の映画を観られないなー、いま読んでる漫画の続きどうなっちゃうんだよ、ぐらいの感じ。自分のこととか嫁のこととか娘のことも一切ないね。娘の成長を見届けたいから頑張って生きたいんだ! とかさ、そんな気持ちになると思ったけどならない自分を客観的に見ていられる。
――くらたまさんが描いてきた叶井さん像がホントだったんだなっていう感じなんですよ。
叶井 あ、ホント? どんな像だったの?
――ひたすら呑気で深いことを考えない。
叶井 考えないねー。
――『ダメになってもだいじょうぶ 』(幻冬舎)本で興味深かったのが、くらたまさんは男とつき合うとき、無人島に流れ着いたときのことを想像する、と。そして、結婚するまでは無人島に流れ着いたときになんとかしてくれる人がいいと思ってたけど、叶井さんは「なんとかなるでしょ」と昼寝を始めるタイプっていう。それを聞いた叶井さんが「たしかにトラブル解決能力はゼロだけどストレスにはめっぽう強い、どんなに切羽詰まっても笑っていられる自信はあるし、彼女曰く『笑って死ねるんならまあいいか』」って言ってたんですけど、まさにじゃないですか。
叶井 ホントだね。それ書いてるの? あれ10年以上前の本だから、そのときとぜんぜん変わってないんだろうね。
――本当に「まあいいか」な人なんだなって。
叶井 しょうがない、なるようにしかならんっていうことなんだろうね。常にそうだから末期がんで余命宣告を受けてもジタバタしてないよね、そのまま受け入れる。まったく未練がないから悲しむこともない。くらたまはちょっと悲しんでたよ。
――そりゃそうですよ。
叶井 泣いてたよ。娘も俺の血を引いてて、一切泣かないからね。一昨日なんてヤフーニュースになったじゃん、娘も知ってるわけよ、スマホ見てるから。「父ちゃん、ヤフーニューストップになってるよ」「俺もう死んじゃうから労わってくれよ」みたいなこと言ったらさ、「いや、そんなことよりもハロウィンのコスプレ衣装買いたい」と。
――思春期だ(笑)。
叶井 「セクシー警官やりたい」と。
――ダハハハハ! そっちなんだ(笑)。
叶井 「ドンキで9000円するから1万円くれ」って「いや、俺いま末期がんだから金とかせびるなよ」って言ったら、「みんな買うんだもん!」とか言うから、あげたよ1万円。
――ハロウィンで渋谷とか行くタイプなんですかね。
叶井 そうそう、セクシー警官を4~5人で渋谷でやるらしいんだよね。「今年、渋谷はハロウィン禁止なんだぞ」って言ったら、「大丈夫、警官だから」とかわけわかんないこと言って。「来週の月曜日は文化祭の振替休日でディズニーシーに行くから2万円くれ」とか昨日も言ってきたしね。末期がん患者に金せびって。だから娘もぜんぜん悲しくないのよ。
――いませびっておかないと、もうせびれなくなるし。
叶井 そうそう、いまのうちに金せびっておくんだろうね。金かかるよ中2。この2日で3万が消えたからね、すごくね? そういうふうになってくるんだよ。
――医療費がそんなにかかってないぶんがそっちに流れて。
叶井 そっちに流れてんの。だから俺が病気だからといって看病なんてひとつもしないし、家事のひとつもしないし、学校から帰ってもバーッと着替えて「夜8時に帰ってくる!」って遊びに行っちゃうわけよ。「ご飯は?」って言うと「友達とマック行く!」とか、そんなノリ。だから家に閉じこもってゲームとかスマホって感じじゃなくて、ずっと遊びに行ってるから活発な子に育ってよかったと思うけど、逆に俺がこうやって末期がんだって知ってるけど、ぜんぜん落ち込まないっていう。
――ふつうでいるほうがいいですよね。
叶井 だから俺もけっこう助かってる。家でも体調悪いときがあるわけ。それでも「そんな痛いんだったら早く寝れば?」とか言って自分の部屋に行っちゃうんだよ。だからべつに心配も何もしてない。してない振りをしてるのかどうかは知らんけど、何も気にしてない素振りなのが俺的には心地いいよね、号泣するよりね。
――くらたまさんのあとがきで、叶井さん頭おかしいと思ったんですよ。「『ウゥーッ腹が痛い』苦しそうな様子の夫。『えっ?』驚き青くなる私。『うそー』笑う夫。たまに夫がやるようになった悪質な冗談。何度騙され、何度困ったことか」って。
叶井 ハハハハハ! それは家でよくやってるね。
――最悪ですよ!
叶井 「うぅ……」とかやってさ、「どうした!?」とか言われてさ、「いやギャグだから」とかさ。
――リアル狼少年ですよ(笑)。
叶井 相当泣いてるからさ。くらたますぐ泣くのよ、そこがおもしろくてね。心配してるからさ。
――この時期、一番やっちゃいけないヤツです!
叶井 末期がんの人がそれやっちゃいけないでしょ。やってるからね、俺。狂ってるよね。いやおもしろいわ、末期がんはおもしろい。
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