「ボリュゾ」の中学受験はなぜ大変? 「絶望しかなかった」平均偏差値49の母の実体験

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 “親子の受験”といわれる中学受験。思春期に差し掛かった子どもと親が二人三脚で挑む受験は、さまざまなすったもんだもあり、一筋縄ではいかないらしい。中学受験から見えてくる親子関係を、『偏差値30からの中学受験シリーズ』(学研)などの著書で知られ、長年中学受験を取材し続けてきた鳥居りんこ氏がつづる。
 今年も「ユーキャン新語・流行語大賞」の候補が発表され、年末を感じる季節を迎えている。どの業界にも、毎年、特有のはやり言葉や造語が登場するものだが、もちろん、中学受験界も例外ではない。
 中学受験生の親の間では、最近は「ボリュゾ」という言葉が流行語のようになっているのをご存じだろうか。
 「ボリュゾ」とは「ボリュームゾーン」の略で、「人数の一番多いゾーン」のことを指す。中学受験界では、主に日能研や四谷大塚が出す偏差値表で、45~55あたりの中間層にいる子どもたちのことを表す言葉として使われており、近年、定着しつつあるワードだ(偏差値は相対評価なので、母集団が変われば偏差値も変わる。ゆえに、模試会社によってもボリュゾの数値には違いがある)。
 中学受験生の親を悩ませているのが、ズバリ「我が子の偏差値」なのだが、「ボリュゾ」にいる子の親のそれは深刻だ。なぜなら、「ボリュゾ」の子は、試験のたびに偏差値が大きく変わり、なかなか安定しないのが常。調子の良い時は、上位校レベルの偏差値60に届きそうなのに、悪い時には下位校に位置する40前後になるということも稀ではなく、志望校の選択が難しいのである。
 現在、中学1年生の明奈さん(仮名)の母である美穂さん(仮名)も、「ボリュゾ」の受験を経験した人物。中学受験を振り返り、「まるで“パズル”のようだった」と表現した。
「小6当時、明奈の偏差値は平均すると49くらい。でも、それはあくまで“平均”で、58の時もあれば、反対に40という時もあって、本当に併願校探しには苦慮しました。良い偏差値を取ると『これから上がっていくかも!?』と期待してしまうのですが、その次の模試では大幅ダウンの繰り返し。塾の先生に相談しても『この時期からは、全員必死で勉強していきますから、偏差値って下がることはあっても、なかなか上がらないんですよ。「ボリュゾ」でキープできているならば立派なものです』と言われる始末で、絶望しかなかったですね……」
 そこで美穂さんは、勉強は子どもに任せて、親ができることをしようと思い直したという。
「明奈は勉強に身が入らないなんてことはなく、むしろ、課題はコツコツとやっていました。ちゃんとやっているのに、相対評価である偏差値は上がらない。ならば、明奈に『もっと頑張れ!』というのは違うと思ったんです。親の役目は明奈に合った学校に行かせてあげること。それには、数多くの学校を見て回らなくてはならないって思いました」
 美穂さんは、私立中学の集まる各合同説明会はもちろん、学校主催の説明会にも足繁く通うようにしたという。
「もちろん、低学年の頃から、暇を見ては足を運んでいたんですが、当時は夢一杯で高偏差値校を中心に見ていました。小6からは新たな気持ちで、学校探しを仕切り直したって感じですね」

 上は偏差値60校から、下は偏差値35校あたりまで、20校以上は見て回ったという美穂さん。その中から、明奈さんには3校を見学させたという。
「偏差値58校、偏差値51校、偏差値42校の3校です。どの学校にも、明奈を実際に連れて行き、本人の希望を聞きました」
 明奈さんが一番、「行きたい」と言った学校は偏差値58校だったそうだ。
「この学校は成績上位の人たちが、滑り止めとして併願する学校ですから、『合格確実』とは、とても言えませんでした。でも、行きたい学校があるのなら、受験させてあげたいという親心もあり、私は偏差値58校を軸に、併願作戦を練ることに徹したんです」
 首都圏の場合、1月から埼玉・千葉入試が始まり、2月1日からは東京・神奈川入試が続く。以前までは、東京・神奈川の学校を本命とするご家庭にとって、埼玉・千葉(あるいは地方寮制中学)の1月入試は、「試験慣れのため受ける」という側面が強く、合格しても辞退するケースが多かった。
 しかし、今は「1月校も本命」とするご家庭が増えている。その理由は、交通網の発達により、埼玉や千葉の学校にも無理なく通えるようになったからなのだが、以前よりも格段に受験校の範囲が広がったがゆえに、併願日程を組む親は余計に頭を使う事態となっている。
「受験日程はまるでパズルのようでしたね。偏差値58校は不合格の確率が高いわけですから、そこがダメな時のことを考えないといけません。例えば、偏差値58校の受験は2回あるのですが、2回ともチャレンジするのか、また1月校はどうするのか、午後入試をするとすれば、どこを受けるべきか……さらには、過去問との相性も含めて、『これがダメならこっち。これが受かっていればこっち』というように、1月から2月6日までの日程を何パターンもシミュレーションし、頭の中がこんがらがって大変でした(笑)」
 そして、入試本番――。

「明奈の性格を考えると、本命校受験の前には、やはりお守り的に『合格』は必要だと思いました。明奈に実際に見学させる時間はなかったのですが、1月は偏差値43校を受けたんです。もし、どこにも受からない場合でも通わせるつもりで、『絶対に明奈に合っている!』と半ば強引に自分に言い聞かせた学校でしたが、無事に特待合格をいただきました。明奈にとっては、偏差値43ではありますが、『特待合格』ということで、大きな自信になったと思います」
 1月校の結果次第で、2月以降の受験校が変わってしまうので、美穂さんは「内心ドキドキだった」そうだが、合格の文字を見た時は心底、ホッとしたそうだ。
 
「『これで、2月は強気に攻めることができる!』って、何か変な力が湧いてきたんですよね。明奈には『本命の偏差値58校は2回とも受験しよう、思い切りぶつかっておいで!』と伝え、明るく送り出すことができました」
 2月1日から始まった東京入試では、本命校である偏差値58校をまず受験。午後は偏差値44校を受験し、当日発表で合格を確認。気を良くしたまま2月2日は、過去問との相性が抜群に良かった偏差値56校を受験したそうだ。
 そして、明奈さんは本命の偏差値58校に見事合格。2月2日に受けた学校にも合格し、4戦4勝という結果で中学受験を終えたという。
「『ボリュゾ』の子たちの受験は本当に水物です。明奈は受かり続けるか、落ち続けるかの2択になりかねないと思っていたので、冷や冷やしていました。これから受験する人たちに何かアドバイスをするとしたら、親が『持ち偏差値より低くても通わせたい学校』をしっかり見極めた上で、受験日程の戦略を練るべきだということです。『合格というお守り』を用意してあげることは本当に大事。明奈はそれで、安心して本命校に臨めたのだと思います」
 美穂さんが言うように、入試というものは、一度波に乗ると、今まで乗れたことなどない波をスイスイと乗りこなせるかのように、うまくいく場合がある。
 中学入試は短期決戦であること、受験生は小学生ということを考えると、我が子の性格を熟知した親の戦略がモノを言う世界。特に「ボリュゾ」の子の親はそこによりいっそう力を入れなければならないだろう。そういう意味で、美穂さんの例は成功パターンといえるだろう。
 今、明奈さんは「レポートの宿題が多くて大変!」とこぼしながらも、元気に学校生活を謳歌しているという。
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