中学受験、偏差値50に届かない息子を「小6秋に強制退塾」させた親の後悔

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 “親子の受験”といわれる中学受験。思春期に差し掛かった子どもと親が二人三脚で挑む受験は、さまざまなすったもんだもあり、一筋縄ではいかないらしい。中学受験から見えてくる親子関係を、『偏差値30からの中学受験シリーズ』(学研)などの著書で知られ、長年中学受験を取材し続けてきた鳥居りんこ氏がつづる。
 中学受験は小学生が受ける入試。いま取り組んでいる勉強が、自分の人生とどうつながっていくのかと俯瞰的に考えられる子のほうが圧倒的に少ない。
 ゆえに、自主的に頑張るというよりも、親に言われて「そういうものか」と受験に突き進んでいる子のほうが多いだろう。つまり、中学受験は「やる/やらない」に始まり、「どの学校を受けるか」「どの学校に進学するのか」まで、親の考え方次第でいかようにも変わってしまうものだ。
 もし、参入を考えているのであれば、親は中学受験情勢、我が子の特性、家族を取り巻く環境なども十分に考察した上で、中学受験をする“覚悟”を持ったほうがいいと思う。というのも、中学受験は昨今、大盛況ではあるものの、たいていの場合、その道は山あり谷あり。理想通りには事が進まないケースがほとんどである。親自身が理想と現実に乖離があることを冷静に認識し、子どもと伴走していかなければならない世界といえるだろう。
 そんな中、覚悟を決められていない親は、中学受験の方針がブレ、子どもを振り回してしまうことになるのだ。
 今回は、この点を理解しないまま中学受験に参入し、後悔している人の例を挙げてみたい。
「もし、あの時に戻れたら、今頃は違った道があったんですかね……」と、元中学受験生の母である佐和子さん(仮名)は重い口を開いた。
 佐和子さんには悟志くん(仮名)という20代前半の息子がいる。彼は単発のバイトはしているものの、基本的には「自宅警備員」(佐和子さん談)状態だという。
「息子の小学校時代のクラスは学級崩壊状態でした。学区中学にもいいうわさはなく、ママ友の子は、みんな中学受験で私立進学を目指していたんです。それで、息子にも慌てて、中学受験をさせようとしました」
 佐和子さんも夫も地方出身者で、高校までは公立の学校で過ごしていたという。つまり、中学受験がどういうものであるのかという肌感覚を知らないまま、周りに流されるように参入したケースに当たる。
「5年生の夏から進学塾に入れたんですが、塾の先生に『今からでは相当厳しい』と言われ、びっくりしました。最初はそれこそ、偏差値は30台でしたね」
 それでも、悟志くんは塾での勉強が気に入り、徐々に偏差値も上昇。偏差値50に届くほどの急成長ぶりを見せたという。
「私は『悟志はすごく頑張っている!』と感心していたのですが、主人は不満があるようでした。『偏差値50にも届かないのは、塾の教え方が悪い!』と言っては、塾にクレームを入れるようになったんです」
 偏差値というのは、受験生の分母によって変わるもの。中学受験は全員が受けるものではなく、学習能力が高い子たちが受けるものであるため、偏差値は低く出がち。高校、大学受験の偏差値と比較すると、誤った考えを招きかねない。
「最初は塾の先生も、主人に『皆が勉強を頑張っているので、中学受験の偏差値はみるみる上がるものではない』『そんな中、悟志くんは本当によくやっている』と丁寧に説明してくださったんですが……。主人がまったく納得せず、クレームを入れ続けるものですから、あちらもだんだんと売り言葉に買い言葉みたいになり、大揉めに。そしてある日、主人は突然、塾に電話して『退塾』を申し入れたんです。6年秋のことでした」

 塾は客商売ということもあるが、子どもたちの頑張りを最も近くで見ているだけに、通常、親が退塾を申し出ても、思い留まるよう説得するケースが大半。しかし、悟志くんはなぜか引き留められることもなく、中学受験はそのまま“強制終了”になったそうだ。
「主人は、『このまま受験をしたとしてもたいした学校に入れない。こんな塾に金をつぎ込み、ロクでもない学校に金を払い続けるなんてことはできない! 高校受験で頑張ればいい!』と言って聞きませんでした」
 当の悟志くんは、もともとおとなしい性格で、口数も少ないためか、母親の佐和子さんにもその本心はつかめないまま、学区公立中学に進学。
 そして、特に問題もないまま、県立高校に進学し、学校推薦を使って私立の中堅大学に入学した。しかし、大学を卒業したものの、就職活動は一切せず、現在に至るという。
「もちろん、コロナ禍の影響もあるんでしょうが、一番の原因は中学受験の“強制終了”なのでは? っていう疑念が拭えないんです。息子のチャレンジする気持ちを根こそぎ奪った気がしてしまって」
 佐和子さんが言うには、悟志くんは中学、高校時代、特に懸命に勉強に打ち込んでいたわけではなく、受験時も「この内申なら、○○高校は受かる」「この評定平均なら、○○大学は無試験で入れる」といった具合に、受動的に進学先を決めたそうだ。
 つまり、悟志くんは努力の末に何かを成し遂げる経験が乏しいわけだが、佐和子さんは「そもそもチャレンジすること自体がムダという先入観があるのでは?」と考えており、それを植え付けてしまった責任を感じている。
「主人は悟志に対して『もうほっておけ!』の一言。でも、こうなったのは私たち夫婦が、中学受験を中途半端に終わらせたからなのかな? と思うと、後悔しかないです」

 中学受験は“親子の受験”なので、親の戦略ありきの世界。親はコーチ役となり、子どもと苦楽を共にしながら、寄り添っていくものである。
 しかし、理想通りに進まないことに腹を立てて、子どもに「強制的に何かをやらせる(または、やらせない)」という手段を取る親も実際、多く存在している。悟志くんの父親のように、子どもの成績が上がらないということに激怒した親が、退塾を申し出るケースも稀ではない。
 このタイプの親たちは、仕事と子育てを同列に考えがち。勝ち負け、あるいは数字だけで物事を判断したり、成果をすぐに求めたりする傾向があるのだ。
 なぜそうなってしまうのかといえば、子育てや教育は、単純でも簡単でもないことに思いが至らないからであるが、怖いのは、親の暴走が、かなり後になって子どもの人生に悪影響を及ぼす点だ。
 中学受験は、確かに偏差値という“数字”に振り回されがちではあるが、子育ては“数字”に左右されてはいけない。中学受験に参入する際は、このことはぜひ、頭に入れておいていただきたいと願っている。
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