『8番出口』巻き込まれ型ヒーロー・二宮和也の集大成、そして絶妙な“一般人み”が似合う国民的アイドルの「役割」
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【サイゾーオンラインより】
映画『8番出口』が8月29日に全国公開された。何の物語性もないゲームが元ネタとあって、実写化が発表された時は「どうやって!?」と関心を呼んだが、いざ映画が完成し、5月19日(現地時間)開催のカンヌ国際映画祭に出品されると、2300人総立ちのスタンディングオベーションを8分間巻き起こした話題作だ。
二宮和也、ファンへの抜かりないサービス
原作はKOTAKE CREATE氏が一人で制作し、2023年11月にPCゲーム配信プラットフォーム「Steam」などで公開された同名ゲーム。舞台は地下鉄の通路で、「①異変を見逃さないこと」「②異変を見つけたら、すぐに引き返すこと」「③異変が見つからなかったら、引き返さないこと」「④8番出口から外に出ること」という4つのルールに従って脱出を目指す。つまり四六時中“異変”がないかどうか、全方位に注意深く目を凝らし、進むか引き返すかを選択していかなくてはならない。
誰もが日常的に通る場所で、瞬間、瞬間に見え隠れする不穏から逃げるという単純ながら奥深いゲーム性は中毒性を持ち、ドハマりするプレイヤーが続出。5000本〜1万本売れればヒットといわれるインディーゲーム界では異例の、全世界累計180万本(2025年7月時点)という大ヒットを記録している。
“巻き込まれる一般人”、二宮和也の「ちょうどよさ」
ヒットしたとはいえ同ゲームにはRPGやシミュレーションゲームのようなストーリーや豊富なキャラクターはなく、“映画向き”の題材とは決して思えない。ゲームファンの多くが戸惑いと興味を抱くなか、今年3月、主演を国民的アイドルグループ「嵐」の二宮和也(42)が務めることが発表された。役名はズバリ「迷う男」。いわゆる“ネームドキャラ(物語において、展開を動かす役割を持った固有名を持つ登場人物)”はではなく、ゲームの世界観そのままに“巻き込まれただけの一般人”という役どころだ。
振り返れば二宮は、「一般人が巻き込まれ」て物語をつむぐ役で、独特の存在感を示してきた。映画評論家・前田有一氏が、無名のキャラクターが似合う二宮の魅力を語る。
まず、本作をチェックした前田氏は「ゲームを知らない人でも楽しめる」と、映画ならではの演出と構成を高く評価する。地下鉄通路からの脱出を目指すという原作ゲームの設定をベースに、オリジナルキャラクターや登場人物の背景描写などを織り交ぜ、ひとつの映像作品へと昇華。また日常が非日常になる空間で、まるで観客自身が通路に迷い込んだかのような錯覚を起こさせる没入感への成功は、やはり二宮の力が大きいという。
「例えば木村拓哉さんのような圧倒的な“二枚目”枠とか、東出昌大さんや新田真剣佑さんといったガタイのいい俳優さんだと、何か非日常的なできごとが降り掛かった時、どこか浮世離れした力で解決しそう。その点、二宮さんは体格を含め親しみやすく中性的な雰囲気をもっていて、威圧感がありません。ちゃんとうろたえて、おどおどする。二宮さんは観客の“等身大”になれることが武器で、“無力な一般人”がよく似合う。自分の体を通して、心情やパニックを観客に疑似体験させられる力を持つんです」(前田氏、以下同)
『硫黄島』も『GANTZ』も 日常と非日常をつなぐ二宮和也
そんな二宮はこれまでにも、数多くの主演作で“一般人だったのに、事件や非日常に巻き込まれる”役を演じてきた。映画『GANTZ』シリーズ(2011)ではデスゲームに引きずり込まれる平凡な青年、映画『プラチナデータ』(2013)では自身が開発したシステムによって殺人犯の濡れ衣を着せられる男。ドラマ『マイファミリー』(2022、TBS系)では、娘が誘拐された父親として大事件に飲み込まれていく。
「先鞭をつけたのは二宮さんが23歳で出演した『硫黄島からの手紙』(2006)ですね。クリント・イーストウッド監督が手がけたハリウッドの大作映画で、二宮さんは“太平洋戦争に招集された元パン屋さん”という役。まさに巻き込まれた一般人です。作中では、斬新な作戦を指揮した栗林忠道(渡辺謙)や、1932年ロス五輪金メダリストのバロン西(伊原剛志)ら『英雄』と呼ばれた人物も登場しますが、“一般人の視点”の役割を担ったのは二宮さん演じる西郷昇で、国際的にも高く評価されました」
その後も二宮は『母と暮せば』(2015)や『ラーゲリより愛を込めて』(2022)、『潜水艦カッペリーニ号の冒険』(2022、フジテレビ系)など複数の戦争映画・ドラマに出演しているが、戦争映画に二宮が重宝されるのにも理由がある。
「たとえば『母と暮せば』は、原爆で亡くなった青年が幽霊として母子で同居するというストーリー。この青年を二宮さんが演じたことで、一般家庭の家族愛が伝わるものになりました。戦争は、究極の“非日常”。そこで“一般人”に下りてくる二宮さんの視点は、観客を日常と地続きの非日常へ接続し、感情に訴えかけてくるんです」
観客の視点で一歩を踏み出す「等身大のヒーロー」
一般人が大きな陰謀や超常現象に巻き込まれる、というテーマはサスペンス映画のひとつの型。たとえば“サスペンスの巨匠”と名高いアルフレッド・ヒッチコックは、無実の男が事件に巻き込まれる作品を数多く制作した。身に覚えのない罪で殺人犯に仕立て上げられてしまう『三十九夜』(1935)や、強盗犯に間違えられた男の逃亡劇を描いた『間違えられた男』(1956)がその一例だ。
“巻き込まれ型サスペンス”が名作となる理由として、前田氏は「観客が自分ごととして感情移入しやすい」ことを挙げる。映画『8番出口』も「永遠にループする地下鉄の通路に閉じ込められる」設定こそファンタジーだが、“リアリティ”が観客を惹き付ける。
「まず、地下鉄の通路という庶民的な場所で『これが実際に起きたら怖いな』と思わせる。そのうえで超人的なキャラの活躍を描くのではなく、普通の男性の“逃げる”、“隠れる”、“焦る”といった人間臭さ溢れる行動を描くことで、リアリティのある物語ができあがっています。
その意味では本作こそが、二宮さんの“巻き込まれ型”俳優としてある意味集大成的作品ともいえそうです。だって今回は事件や陰謀、劇的なキッカケなどが何もないんですよ。ただ歩いていて巻き込まれるだけで、95分間観客を引き留めておくわけですから」
とはいえ“一般人”が巻き込まれる作品ならば、わざわざ二宮のような顔面認知度の高い俳優でなくてもいい気がするが――。
「無名の俳優だと感情移入しづらい。そこはやはり国民的アイドルで、パッとせず、頼りないキャラクターのように見えて、いざ窮地に立たされた時、目の前の困難に立ち向かうための一歩を踏み出す勇気がある。その歩みに説得力をもたせられるのは、やはりアイドルならではです。スターとして数々の実績があるのに、どこか脱力感をまとい、いつの間にか隣にいてもおかしくない空気感を出す二宮さんは、“等身大のヒーロー”として唯一無二の存在でしょう」
前田氏は、本作に「日常に潜む変化に気づけ」というメッセージを感じたという。
同じ道、同じ場所を通る繰り返しの毎日のなかで、ほんの少しの変化に気づくことができたなら、無機質な日々に少し風が吹くかもしれない。それは逆にいえば、見逃したり、見て見ぬふりをしていたりすると、閉塞感をおぼえたまま時を過ごすことになるという示唆でもある。“等身大ヒーロー”二宮和也が変化を見つけて前に進もうとする姿は、視野をほんの少し広げ、新しい一歩を踏み出そうと語りかけてくるようだ。
ジャニー氏に「謝ってほしい」発言
(取材・構成=吉河未布 文=町田シブヤ)
映画『8番出口』が8月29日に全国公開された。何の物語性もないゲームが元ネタとあって、実写化が発表された時は「どうやって!?」と関心を呼んだが、いざ映画が完成し、5月19日(現地時間)開催のカンヌ国際映画祭に出品されると、2300人総立ちのスタンディングオベーションを8分間巻き起こした話題作だ。
二宮和也、ファンへの抜かりないサービス
原作はKOTAKE CREATE氏が一人で制作し、2023年11月にPCゲーム配信プラットフォーム「Steam」などで公開された同名ゲーム。舞台は地下鉄の通路で、「①異変を見逃さないこと」「②異変を見つけたら、すぐに引き返すこと」「③異変が見つからなかったら、引き返さないこと」「④8番出口から外に出ること」という4つのルールに従って脱出を目指す。つまり四六時中“異変”がないかどうか、全方位に注意深く目を凝らし、進むか引き返すかを選択していかなくてはならない。
誰もが日常的に通る場所で、瞬間、瞬間に見え隠れする不穏から逃げるという単純ながら奥深いゲーム性は中毒性を持ち、ドハマりするプレイヤーが続出。5000本〜1万本売れればヒットといわれるインディーゲーム界では異例の、全世界累計180万本(2025年7月時点)という大ヒットを記録している。
“巻き込まれる一般人”、二宮和也の「ちょうどよさ」
ヒットしたとはいえ同ゲームにはRPGやシミュレーションゲームのようなストーリーや豊富なキャラクターはなく、“映画向き”の題材とは決して思えない。ゲームファンの多くが戸惑いと興味を抱くなか、今年3月、主演を国民的アイドルグループ「嵐」の二宮和也(42)が務めることが発表された。役名はズバリ「迷う男」。いわゆる“ネームドキャラ(物語において、展開を動かす役割を持った固有名を持つ登場人物)”はではなく、ゲームの世界観そのままに“巻き込まれただけの一般人”という役どころだ。
振り返れば二宮は、「一般人が巻き込まれ」て物語をつむぐ役で、独特の存在感を示してきた。映画評論家・前田有一氏が、無名のキャラクターが似合う二宮の魅力を語る。
まず、本作をチェックした前田氏は「ゲームを知らない人でも楽しめる」と、映画ならではの演出と構成を高く評価する。地下鉄通路からの脱出を目指すという原作ゲームの設定をベースに、オリジナルキャラクターや登場人物の背景描写などを織り交ぜ、ひとつの映像作品へと昇華。また日常が非日常になる空間で、まるで観客自身が通路に迷い込んだかのような錯覚を起こさせる没入感への成功は、やはり二宮の力が大きいという。
「例えば木村拓哉さんのような圧倒的な“二枚目”枠とか、東出昌大さんや新田真剣佑さんといったガタイのいい俳優さんだと、何か非日常的なできごとが降り掛かった時、どこか浮世離れした力で解決しそう。その点、二宮さんは体格を含め親しみやすく中性的な雰囲気をもっていて、威圧感がありません。ちゃんとうろたえて、おどおどする。二宮さんは観客の“等身大”になれることが武器で、“無力な一般人”がよく似合う。自分の体を通して、心情やパニックを観客に疑似体験させられる力を持つんです」(前田氏、以下同)
『硫黄島』も『GANTZ』も 日常と非日常をつなぐ二宮和也
そんな二宮はこれまでにも、数多くの主演作で“一般人だったのに、事件や非日常に巻き込まれる”役を演じてきた。映画『GANTZ』シリーズ(2011)ではデスゲームに引きずり込まれる平凡な青年、映画『プラチナデータ』(2013)では自身が開発したシステムによって殺人犯の濡れ衣を着せられる男。ドラマ『マイファミリー』(2022、TBS系)では、娘が誘拐された父親として大事件に飲み込まれていく。
「先鞭をつけたのは二宮さんが23歳で出演した『硫黄島からの手紙』(2006)ですね。クリント・イーストウッド監督が手がけたハリウッドの大作映画で、二宮さんは“太平洋戦争に招集された元パン屋さん”という役。まさに巻き込まれた一般人です。作中では、斬新な作戦を指揮した栗林忠道(渡辺謙)や、1932年ロス五輪金メダリストのバロン西(伊原剛志)ら『英雄』と呼ばれた人物も登場しますが、“一般人の視点”の役割を担ったのは二宮さん演じる西郷昇で、国際的にも高く評価されました」
その後も二宮は『母と暮せば』(2015)や『ラーゲリより愛を込めて』(2022)、『潜水艦カッペリーニ号の冒険』(2022、フジテレビ系)など複数の戦争映画・ドラマに出演しているが、戦争映画に二宮が重宝されるのにも理由がある。
「たとえば『母と暮せば』は、原爆で亡くなった青年が幽霊として母子で同居するというストーリー。この青年を二宮さんが演じたことで、一般家庭の家族愛が伝わるものになりました。戦争は、究極の“非日常”。そこで“一般人”に下りてくる二宮さんの視点は、観客を日常と地続きの非日常へ接続し、感情に訴えかけてくるんです」
観客の視点で一歩を踏み出す「等身大のヒーロー」
一般人が大きな陰謀や超常現象に巻き込まれる、というテーマはサスペンス映画のひとつの型。たとえば“サスペンスの巨匠”と名高いアルフレッド・ヒッチコックは、無実の男が事件に巻き込まれる作品を数多く制作した。身に覚えのない罪で殺人犯に仕立て上げられてしまう『三十九夜』(1935)や、強盗犯に間違えられた男の逃亡劇を描いた『間違えられた男』(1956)がその一例だ。
“巻き込まれ型サスペンス”が名作となる理由として、前田氏は「観客が自分ごととして感情移入しやすい」ことを挙げる。映画『8番出口』も「永遠にループする地下鉄の通路に閉じ込められる」設定こそファンタジーだが、“リアリティ”が観客を惹き付ける。
「まず、地下鉄の通路という庶民的な場所で『これが実際に起きたら怖いな』と思わせる。そのうえで超人的なキャラの活躍を描くのではなく、普通の男性の“逃げる”、“隠れる”、“焦る”といった人間臭さ溢れる行動を描くことで、リアリティのある物語ができあがっています。
その意味では本作こそが、二宮さんの“巻き込まれ型”俳優としてある意味集大成的作品ともいえそうです。だって今回は事件や陰謀、劇的なキッカケなどが何もないんですよ。ただ歩いていて巻き込まれるだけで、95分間観客を引き留めておくわけですから」
とはいえ“一般人”が巻き込まれる作品ならば、わざわざ二宮のような顔面認知度の高い俳優でなくてもいい気がするが――。
「無名の俳優だと感情移入しづらい。そこはやはり国民的アイドルで、パッとせず、頼りないキャラクターのように見えて、いざ窮地に立たされた時、目の前の困難に立ち向かうための一歩を踏み出す勇気がある。その歩みに説得力をもたせられるのは、やはりアイドルならではです。スターとして数々の実績があるのに、どこか脱力感をまとい、いつの間にか隣にいてもおかしくない空気感を出す二宮さんは、“等身大のヒーロー”として唯一無二の存在でしょう」
前田氏は、本作に「日常に潜む変化に気づけ」というメッセージを感じたという。
同じ道、同じ場所を通る繰り返しの毎日のなかで、ほんの少しの変化に気づくことができたなら、無機質な日々に少し風が吹くかもしれない。それは逆にいえば、見逃したり、見て見ぬふりをしていたりすると、閉塞感をおぼえたまま時を過ごすことになるという示唆でもある。“等身大ヒーロー”二宮和也が変化を見つけて前に進もうとする姿は、視野をほんの少し広げ、新しい一歩を踏み出そうと語りかけてくるようだ。
ジャニー氏に「謝ってほしい」発言
(取材・構成=吉河未布 文=町田シブヤ)