中学受験、「最低でもGMARCH」はウソだった――わが子を新設校に入れた母の後悔

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 “親子の受験”といわれる中学受験。思春期に差し掛かった子どもと親が二人三脚で挑む受験は、さまざまなすったもんだもあり、一筋縄ではいかないらしい。中学受験から見えてくる親子関係を、『偏差値30からの中学受験シリーズ』(学研)などの著書で知られ、長年中学受験を取材し続けてきた鳥居りんこ氏がつづる。
 近年、中学受験率が右肩上がりになっている。首都圏では特に受験生が増えており、すでにスタートしている 2024年の入試も激戦のようだ。
 そんな中、特に最近では、新設された学校や新たに共学化した学校に人気が集まっていて、学校説明会はどこも大盛況。その理由は、「時代に合った教育をしてくれそう」という保護者の期待感の現れだといわれている。
 というのも新しい学校では、英語教育を含めた国際教育、アクティブラーニング、海外留学、海外大学進学なども視野に入れたグローバリゼーションを意識したカリキュラムが採用され、さらに、医薬・サイエンスなど理数教育に力を入れているケースが多い。これらの点が保護者に評価されているのだ。
 一例を出すならば、24年4月に開校する開智所沢(中等)。学校がまだ出来上がっていないにもかかわらず、学校説明会は常に満員御礼。説明会では「新しい学校を、一緒に創りませんか?」というキャッチコピーを掲げて、保護者の心をわしづかみにしているという。
 このように、新設校の魅力は当然のことながら、すべてがフレッシュであること。生徒と教師が一体となって自分たちで学校を作り上げていこうという意欲に満ちあふれている点だろう。
「最低でも早慶GMARCH、東大も視野」中学受験で新設校を志望したワケ
 早恵美さん(仮名)も、長男である現在アラサーの由宇さん(仮名)を当時、開校してまだ間もない中高一貫校に入れた一人だ。
「由宇が小学5年生の時です。担任の先生がメンタルの疾患を患い、突然、長期休養に入られたんですね。当時はクラスが荒れていて学級崩壊のようになっていました。見かねた役員さんの主導で保護者会も頻繁に開かれたんですが、学校側の危機意識は低くて、解決策も示されず、私は学校不信になっていきました」
 そんな時、友人であるM君ママにランチついでに学校見学に誘われた早恵美さん。私立中高一貫校のイメージも湧かぬまま、M君ママについていったという。
「ずっと地方で育ってきた私にとっては、私立中学と言われてもピンとくるものではありませんでした。田舎では私立は公立の滑り止めだったので、なんで皆が『私立私立』というのかすらわからなかったんです」
 そんな早恵美さんが初めて訪れたのは、M君の志望校の一つであるZ中学だった。
「本当に驚きました。きれいな建物、豪華な設備といった外観はもちろん、練りに練った感のあるシラバス、そして目を見張るような大学合格実績……。都会の私立ってこういうところなんだ! と、目から鱗が落ちるような経験でしたね」
 Z中学は当時、改革著しい中高一貫校だったそうだが、卒業生の大学合格実績の好調さを受け、受験生に大人気。当時は偏差値も上がる一方の学校だったという。
 Z中学を一目で気に入った早恵美さん。すぐに中学受験塾に由宇さんを入れて、同校を志望校にしようとしたらしい。
「無知ゆえの怖いもの知らずで……。入塾したらZ中学に入れるくらいに思っていたんですが、塾の先生に『5年生の初夏からでは、とてもじゃないけどZ中学は無理ですよ』って言われちゃったんです。それで、M君ママに相談したところ、『今からでもいいから、たくさんの学校を見るといいよ』ってアドバイスを受けて、行ける範囲の学校を片っ端から見て回りました」
 その結果、早恵美さんは当時、ニューウェーブ校の一つと言われていたJ学園が気に入り、結果として同校に由宇さんを進学させたという。
「J学園は当時、開校から数年のまだ新しい学校で、卒業生が出ていないので、偏差値こそ低いままだったのですが、先生方が、『将来的には、最低でも早慶GMARCH、東大も視野に入れています!』と豪語なさっていましたし、授業もアクティブラーニングを多く取り入れていて、最先端の教育のように思えたんです。私にはすごく魅力的に映り、狙えない学校ではなかったので、由宇と一緒に頑張りました。無事に入学できた時は、本当にうれしかったですね」

 由宇さんも当初は楽しく通っていたとのことだが、暗雲が垂れ込めだしたのは中学3年生あたりからだったという。
「突然、先生方が大量に辞めたんです。詳しい事情はわからないんですが、どうも学校上層部と意見が対立した……ということがあったようです。学校の看板のようにご活躍なさっていた先生も辞められて、まるで空中分解のようになっちゃって。実施予定だった行事のいくつかもなくなりましたし、全体的に勢いがなくなった気がしました。由宇の大好きな先生も退職されて、本当に悲しんでいましたね」
 早恵美さんをガッカリさせたのは、学校側の対応だったという。
「結局、学校側からの詳しい説明はないまま、そのまま高校へ上がりました。最低でもGMARCHと言っていたのもウソで、卒業生は良くてGMARCH。早慶に合格する人なんて、ほとんどいないって状態だったんです」
 また、入学前、学校側は「英語はネイティブから学ぶので、任せてください」と言っていたものの、「ふたを開けてみたら、いわゆるお飾りネイティブ。授業にネイティブの講師が来たからって、英語ができるようになるわけじゃないですよね……」と、早恵美さんはため息をつく。
「このように、入学前の約束がどんどんと反故にされていくようで、ガッカリしました。小学校で懲りていたのに、また学校に不信感を抱くことになってしまって……。高いお金を出しているだけに本当に残念に思っていました」
 学校側も経営がかかっているので、入学者獲得のために美辞麗句を並べて受験者を誘うのは、ある意味、常套手段ともいえる。また、あまり知られていない事実かもしれないが、例えば、「海外有名大学で講義が受けられる」というような特典は、その学校ではなく、在籍している先生個人のコネクションにより成立していることも、実際にあるのだ。
 つまり、その先生が何らかの事情で退職すると、その特典を得るためのルートごとなくなる……ということがないわけではない。伝統校であれば、ノウハウが受け継がれているので稀なケースかもしれないが、そこは新設校の弱点だろう。
 学校が何らかの新しいことにチャレンジして、その改革が完全に軌道に乗るには、最低でも10年の歳月がかかるといわれている。今現在、大学合格実績も含めて超一流校と呼ばれている学校は、たった数年で名だたる実績を上げたのではなく、先生方や生徒たちの日頃の努力の積み重ねた結果であり、その歴史の上に成り立っているのである。

 早恵美さんに、当時を振り返ってもらいながら、今の心境を聞いてみた。
「由宇が高校生の時に聞いたんですよ。『入学前の約束が守られてない学校だと思わない?』って。そしたら、由宇が『たかが学校だもん。そんなもんでしょ? 学校に期待できないなら、自分に期待するしかないよね』と答えたので、びっくりしました。由宇のほうが、いつの間にか大人になってたんですね。人生、思うようにならなくても、何かは得ているってことかもしれません」
 人生は、たとえ希望通りの進路に進んでも、実際にその場所で過ごしてみないとわからないことだらけだろう。中学受験でも、親御さんはさまざまなことを熟考して、わが子を学校に送り出すのであるが、現実問題として、その学校が合っていたのかどうかの判断は卒業後。運よく志望校に受かったとしても、途中、何があるかはわからないものだ。
 しかし、「なんだかうまくいかないな」と思った時は、由宇さんのように「たかが学校」と気持ちを切り替えるのもありだと思う。
 J学園を卒業した由宇さんはある大学の薬学部に入学し、現在、薬剤師として活躍中とのこと。聞けば、小学生の頃から、「くすりやさん」に憧れていたのだそうだ。由宇さんの「自分に期待するしかない」という思いは、見事結実したといえるだろう。
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