『夕暮れに、手をつなぐ』脚本家・北川悦吏子の過去作『ロンバケ』を伝説の「企画書」とともに味わう

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エンタメ批評界の「ひとり隙間産業」佃野デボラが、見逃せない“味”なコンテンツ、略して「味コン」をプレゼンする不定期連載。
【今回の「味コン」!!】
「夢ノート」のような「原案」も発掘。脚本家・北川悦吏子による27年前の大ヒットドラマ『ロングバケーション』
 “恋愛の神様”こと北川悦吏子大先生が脚本を担当したドラマ『夕暮れに、手をつなぐ』(TBS系)が3月21日をもって放送終了し、「夕暮れロス」が止まらない。無論、「止まらない」の主語は筆者ではなく、北川大先生なのだが。
 大先生といえば、常にTwitterで《褒めて! 讃えて!》を叫んでおり、脚本家界きっての「欲しがり屋さん」として広く知られる。Twitterの検索窓に「from:halu1224 褒めて」と入れてみると、大先生の「称賛欲しがりツイート」がザクザク出てくるので、気になった方はぜひ検索してみていただきたい。
「夕暮れロス」からの「ロンバケ、すごかったな〜!」。数珠つなぎの自画自賛
《しばらく、夕暮れロスだった。》
《夕暮れーのない、火曜日が来る。淋しい。》
《#夕暮れ思い出 こんなハッシュタグないよね。関係者がこれでつぶやかないかなって。》
 最終回から1週間以上がたち、『夕暮れに、手をつなぐ』への称賛コメントの潮も引いた今日この頃。大先生の「ロス」は相当なもののようで、ホーム画面を見てみると、こうした、ファンやスタッフに目くばせするようなツイートが並んでいる。そんな状況下、1996年の大ヒットドラマ『ロングバケーション』(フジテレビ系)が、「Tver」その他各社から順次配信中であることは、大先生を大いに慰めているに違いない。
 『夕暮れに、手をつなぐ』が終盤に差しかかるあたりから、『ロンバケ』がらみの「褒めて!」ツイートがにわかに増えだした大先生。96年当時の思い出を語り始めたり、キングコング・西野亮廣が『ロンバケ』の瀬名役・木村拓哉について語ったvoicyを引用したりと、「過去の栄光も褒めて!」という切なる思いが行間からあふれ出している。

 このように、「『ロンバケ』への賛辞ちょうだいキャンペーン」真っ盛りの大先生だが、26日夜には、
《こんなもの、見つけた(ハート型エクスクラメーションマーク)ロンバケの裏側》
と、ご機嫌でツイートし、YouTubeにアップされた当時のメイキング番組『ロンバケの裏側』(※正式な番組タイトルは『ドラマの裏側 VOL.7 一行の台詞から…』)へのリンクを貼っていた。しかし、何を思ったか翌朝にはこのツイートを削除。そしてなぜか翌々日の28日夜に、
《私、若くて野暮くて、一生懸命で、いい気^_^。若気の至り。27年前かあ。あなたの27年後は病気でけっこう大変だけど、でもそんなに悪くもないよ、いいこともあるよって、教えてあげたい^_^。てか、まだ書いてんの?って言いそう、27年前の私。》
と、『ロンバケ』から27年の後も(大先生が思う)脚本家の“第一線”で活躍している自分にうっとりしながら、文言を変えてツイートし、再び『ロンバケの裏側』のリンクを貼り直している。
 一応“業界人”である大先生が、公式によるものではない、違法アップロード動画へのリンクを貼るのはいかがなものかとも思うが、「こまけえこたぁ気にしない」、その“剛気”こそが、北川大先生の真価というものだ。ところで、この『ロンバケの裏側』、実は大先生の“ファン”の間ではちょっとした“お宝映像”として知られているのだ。

 件の『ロンバケの裏側』には、「地雷を踏む」という言い回しの“発明者”は自分であると鼻高々に語る、若かりし大先生のインタビューをはじめ、制作の裏話が収められているのだが、見逃してはならないのが、『ロングバケーション』が実現に至る数年前から温めていたという、大先生自らワープロで作成した「企画書」が大写しになる場面だ。そこには、以下のように記されている。
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『Best Freinds』(仮)
〜ひとりじゃないってば〜
『男と女だから、いい友達になれるってことだってあるんだ』
◇一途な女と、遊び人男の、ハートフルストーリー◇
相沢南は、正攻法な女の子。
好きな男の人にはいつも、一途。
会計事務所をやっている恋人の、涼とは、もう一年半のつきあい。そろそろ、プロポーズされるかな…という期待に胸を膨らませている。
ある日、南は、涼に、会社から愛のファックスを送る。
(※南は、住宅会社、xxホームに勤めるOL。時には、システムキッチンの窓を飾ったり、モデルハウスの受付なども、やったりする。)
「今日、〇〇(場所)で×時に待ってるからね。涼ちゃんへ。あなたのミナミより。P.S I LOVE YOU」なんて書いて、涼の事務所にファックスする。
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(※原則すべて原文ママ)
 これが、かの、社会現象にもなったトレンディドラマ『ロングバケーション』の企画書であると、にわかには信じがたい。まるで中学生が書いた漫画のアイデア、あるいは「夢ノート」のような内容ではないか。さらに、タイトルの綴りは間違っているわ、「『正攻法な女の子』ってどういう日本語よ?」と頭を抱えるわ、近年作にも通ずる「仕事描写のグダグダさ」がこの時点で見て取れるわで、“北川大先生マニア”にとっては、たまらない内容だ。
 ましてや、ヒロインの名前が「南」であること以外、舞台設定も人物造形もあらすじも、何ひとつ『ロンバケ』と重ならない。これはつまり、「完成品」の『ロンバケ』に至るまでに、同作を担当した亀山千広プロデューサーの「テコ入れ」によって相当な“ブラッシュアップ”がなされたと考えられる。

 さらに驚くことに、遡って12日夜の投稿で大先生は、「南(山口智子)が花嫁衣装のまま爆走して、息を切らして瀬名(木村拓哉)の部屋に駆け込んでくる」という第1話冒頭シーンについて、うれしげにこう語っている。
《あの出だしは、やはり賛否両論ありました。作り手の中でね。もうちょっと普通なOLさんの話とかにしたらどうでしょう?と言われた記憶が。視聴者も見やすいですよ、と。覚えてるってことは、胸に刺さったんですよね。その言葉。それもそうだろうなあ、と。でも、あれがやりたかったんだと思います。》
 あれれ? 話が食い違いやしませんか大先生。「企画書」を読む限り、最初にこのドラマを《普通なOLさんの話》に設定していたのは大先生ですよね……? 27年の歳月を経ると、ここまで記憶に“補正”がかかるものなのでしょうか?
 さて、北川大先生の「輝かしい過去の栄光」である、最高視聴率36.7%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)を記録したこの『ロングバケーション』。96年制作ゆえの「時代感」と「古臭さ」はあるものの、『半分、青い。』(2018年/NHK総合)、『ウチの娘は、彼氏が出来ない!!』(2021年/日本テレビ系)、『夕暮れに、手をつなぐ』といった近年の「依代三部作」に比べれば、大先生による登場人物への自己投影は控えめで、大分見やすい作りとなっている。おそらく亀山Pの「舵取り」と「導き」が相当に効いているのだろう。
 とはいえ、「サバサバ」と「ガサツ」を履き違えたヒロイン・南の人物造形、南が粗暴な言動を繰り出して相手の反応を見る「試し行為」、大先生と家族(ここでは実兄)の思い出を作劇に組み込んだ、有名な「スーパーボール」のシーンなど、のちの「北川作品あるある」に通ずる“メソッド”の萌芽が感じられて趣深い。
 あれから27年。すっかり“大御所”となった北川大先生の近年作には、プロデューサーによる「制御」が効いていないのではないかと感じられるものが多い。大先生とドラマプロデューサーの「パワーバランスの変化」に想いを馳せながら、在りし日の『ロンバケ』を見てみるのもいいだろう。ドラマのスタート地点である、《Best Freinds(仮)》の「企画書」の文面を反芻しながら鑑賞するのも一興だ。
※《》内はすべて原文ママ。
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